【第3回】いよいよ「環境側面の特定」および「著しさの決定」のための具体的手法の説明。

前回までの内容の復習。

前回までの2回の内容を振りかえってみましょう。

1番目のコミットメント;「法的要求事項・その他の要求事項を順守する」
文字通り法順守の要求です。「組織の生産(営利)活動に関連して適用される環境法規等を明確にして要求事項を順守する。」ということですね。
2番目のコミットメント;「汚染の予防」
日本語では「公害防止」と解釈したほうが理解しやすいでしょう。また修飾語を追記すると理解しやすくなります。
((油類・薬品類・汚染物質等保管設備)破損・崩壊などの環境事故において発生する環境)「汚染の予防」となります。
またISO14001規格に定義では以下記述されています。汚染の予防の定義:参考 汚染の予防には代替材料の利用やリサイクルも含まれます。
要は「(事故の予防・環境負荷の小さい材料への変更・リサイクル化)などにより環境負荷低減を図る。」ということですね。
3番目のコミットメント;「継続的改善」
規格の定義によると「システムを改善することにより環境パフォーマンスを改善すること。」ということですね。

1回目 ISO:14001の要求事項は「4.2:環境方針」および「4.6:経営層による見直し」の2つのみ。

要求事項1
4.2:環境方針は3種類「法順守・汚染の予防・継続的改善」の宣言を含み公開すること。
それらの3つの宣言に対応して環境側面は評価され著しい環境側面が決定される。
要求事項2
方針の内容にふさわしい活動を実施しているこかどうかを経営層は検証をすること。
経営層による見直しのために提供される情報は8項目用意されており、それらは上記3つの宣言に対応する情報に識別可能。

2回目 環境側面・著しい環境側面のイメージを認識する。

JAB公開文書によると、

  • 石油精製・石炭による火力発電といった「幾つかの環境側面において著しい環境影響がある製造・加工業務」
  • プリント基板製造・金属表面処理といった「何らかの環境側面において著しい影響がある製造業務」
  • プラスティック成型・ハーネス加工といった「著しい側面がほとんどない組み立て業務」

と記述されており、例えば「排水経路・排水保管設備からの工程廃水の漏洩」「排水処理作業における排水基準違反」などの環境事故が著しい環境側面が著しい環境側面と想定される。
また14004によると a)疑似FMEA手法  b)法的要求事項  c)対外的イメージ により著しさを決定することを推奨しているのでa)b)は前述の環境事故状況が想定され、c)に関しては企業(組織)のイメージアップのための宣伝活動に利用できる項目を著しい環境側面として設定可能であることが理解できる。

以上となり、第1回、第2回を踏まえてここで確認しておきたいことは、要約すると{ISO14001では「著しい環境側面」が重要でありこれらは「規格を作る立場(制定側)の方々」はある程度どのようなものが「著しい環境側面」であるかを想定してその他の規格要求事項を設定している。}ということです。

規格制定側」が想定していると思われる「著しい環境側面」の特定手法。

それではこれから環境側面特定の効果的方法について記述していきますが、まず最初に環境マネジメントシステムに関わる14000規格の関係は以下となります。

  • ISO14001の4項:環境マネジメントシステム要求事項(要求事項はISO14001:4項に記述されていることのみ)
  • ISO14001付属書A:利用の手引き
  • ISO14004:環境マネジメントシステムの原則、システム及び支援技法の一般指針

上記から判るように要求事項はISO14001:4項に記述されていることのみですので4.3.1項の環境側面では{適用範囲の中で活動・製品・サービスの環境側面を特定・評価して著しい環境側面を決定する手順を確立し、実施し、維持してすること。その手順を実施した結果は「文字にしておくこと」(「頭の中で考えていました」ではダメです) および現在の活動等の状況と整合しておくこと。}が要求されているのみであり、要求事項の中では具体的手法についてはふれていません。すなわち環境側面特定・評価手順は自由度が高いということです。そのため手引き・指針と言った解説書が用意されているわけです。これを活用しない手はないですね。

指針の記述等から以下の手法の利用が効果的であることがわかります。

  • 1工場で発生する排水(生産工程排水、生活排水、雨水排水)の発生から放流までの経路を明らかにして、それらの移送手段(配管)および貯蔵施設(原水槽、貯蔵タンク、油水分離槽、グリストラップ等)からの廃液の漏洩に関する情報を明らかにする。考えられる手段は「排水経路および貯槽の図面作成」となります。
  • 2それらの図面および現場の調査から漏洩事故の「発生の可能性」「発生した場合の影響の度合い」等を想定して場所ごとに思いつく限り記述していきます。
  • 3それらの情報をもとに「これは危ない」「それほど大したことはない」などの評価をしていく。その結果、「気をつけていないと危ない状況である」ものを「著しい環境側面」と決定する。
  • 4同様に「薬品タンク」「油類タンク」「危険物貯蔵所」などから「材料または廃液の漏洩」の観点から2、3を実施する。
  • 5「排気」「騒音・振動」についても同様の作業を行う。ただし一般的に「液体に関する漏洩」に比較すると作業は少なく簡単であることが多いようです。
  • 6(前述した手法とは全く手法がかわります。)組織で使用する材料・副資材・エネルギーの収支を明らかにするマスバランス/エネルギーバランスシートを作成する。言い換えると工場で一年間に使用する材料の項目と製品・(廃棄物・有価物などの)排出物を記述する。組織の電気、ガス、重油・灯油などのエネルギー使用量を明らかにする。排出水中の汚染物質濃度、排気中の汚染物質濃度、騒音・振動のレベルなどの情報を収集する。
  • 7それらの項目のなかから「企業のブランドイメージの上げ下げ」の観点から「改善の優先順位」を決定する。

上記を考えながら「環境側面」「著しい環境側面」を記述していくことが環境マネジメントシステム構築・運用の出発点となります。

今回の「著しい環境側面特定(初期環境レビュー)」の重要ポイント

用意するもの

  • 1「排水経路図」:工程排水、生活排水、雨水排水の3系統。可能であれば配管・貯槽の構造・材料図面ないしはその情報。
  • 2材料用のタンク・危険物置場の配置図面。
  • 3空調設備(エアコンの室外機、クーリングタワーなども含む)、コンプレッサ、プレス機などの配置図面。
  • 4年間資材購入項目リスト、有価物・廃棄物項目リスト。
  • 5(必要に応じて)環境検査結果。
  • 6過去に使用した(トリクレン・ジクロロメタン、鉛・カドミウムなどの)有害物質の情報。

これらの情報から「企業存続に関わるリスク」および「企業のイメージアップ」の観点から評価して「著しい環境側面(優先順位の高い予算配分先の候補)」を決定します。

審査員の独り言

すでにISO14001登録審査を受けられた企業の環境側面特定手順に関してよく見かける光景。

特定された環境側面を水、大気、温暖化、廃棄物など8~10項目の「環境側面特定のキーワード」を評価項目として記述されており該当しているかどうかをチェックする欄が用意されている。
このような「環境影響評価シート」をみると新米審査員は「しめた。」と思うこと間違いなしです。考えてみてください。環境側面が100個以上も特定されてそれらを8項目評価することになれば800項目以上の評価が必要になり、環境に強い人ならいざしらず一般の方々が矛盾なく記述するためには相当な労力を要します。

それらを一応環境のプロである審査員からみたら矛盾をつつくのは簡単なことであり、審査時間を費やすには格好のネタとなります。言い方を換えればこのような「環境影響評価シート」を作成することはわざわざ審査員有利の状況を自ら作り出す、「自然環境にやさしい」ではなく「審査員にやさしい」システムに他なりません。

影響評価は前回記述したとおり「リスク評価」「法規制」「企業イメージ」の観点から実施すべきであり、規格が「環境側面特定のためのキーワード」として用意した項目を「評価項目」として使用するのは誤った使用法です。
ついでに言えば「非定常時」も環境側面を特定するためのキーワードであり「緊急事態」「リスク」「事故」と言った事象は「非定常作業」を実施する場合に多く発生していることは多くの方々が実感していることです。
例えば、「タンク内の清掃時での酸欠事故」「切れた蛍光灯の取替え作業時の転落事故」など:環境側面とはいっても安全上のリスクが多いようです。環境と限定すれば「クーリングタワーのスケール除去作業時の薬品・スケールを含む廃水の放出」となります。そのため環境側面を定常時・非定常じで分類するのではなく「非定常時の作業(プロセス)」を明らかにしてその作業(プロセス)でのリスクを明らかにすることが企業にとって大切な作業となります。

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