第7回 キョーワハーツ

( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」第36巻 第11号(1998年10月号))

執筆者 内原康雄

代表取締役社長 坂本 悟 氏

株式会社キョーワハーツは弱電メーカーの一次下請け群に多くの顧客を持っている専業プレスメーカーで、東京の目黒区に本社を置き、神奈川県横浜市港北区に工場を展開している。今回は主力工場の港北工場をレポートする。
主業務として精密金属プレス加工、精密金属プレス金型製作をはじめ、熱処理、塗装、組立などをこなしている。その製品群は板バネ加工を中心としているが。とくにステンレスの板バネ加工には定評がある。弱電メーカーの1次下請け群を多くの顧客に持つ専業プレスメーカーである。
経営方針として一社依存率を低くし、多数の顧客から専門的な製品を受け入れる体制を確立している。坂本悟社長は「当社はプレス部品製造メーカーですから、安くて良いものを提供するしかない。それには社内での金型技術、設計技術の蓄積がすべてです」と語る。
また、今年度もCAD/CAMシステムの再構築、ネットワーク化、インターネットの取り組みを始めている。
「製造現場のニーズはますます多様化しています。けれども我々に求められてるのは専門化です。メーカーさんは我々、部品メーカーからよりコストパフォーマンスの良い部品を購入することを望んでいます。我々もそれに応えるべく専門化を推し進めるのが今後の部品メーカーのあり方なのです」
坂本社長の思想は生産現場にも反映されている。

1.金型設計/製作-技術の継承とコンピュータテクノロジーの合体

金型設計のベテラン・森安氏

金型設計現場で客先のニーズに積極的に対応しているのは森安氏である。森安氏は金型設計経験40年のベテランで複雑な形状の順送金型の設計/製作を日夜こなしている。
森安氏は、メーカーの短納期について次のように語る。
「とにかく今は納期対応が中心です。どれだけ早く金型を作れるか、それで量産が流れるかどうかが決まるわけですから、我々も常に臨戦体制です」
 キョーワハーツの金型製作人員は7名である。そのうち設計人員は森安氏を含めて3名である。坂本社長もそこに加わる。これはワイヤーカット2台の機械設備にたいして新型、メンテナンスを含めての人員数であるから同社がいかに金型製作に重きを置いているかがわかる。
坂本社長は森安氏を評して「当社の技術力の指標は彼にあります。彼の経験値とコンピューターによるCAD/CAM化を付加して、うちの技術水準がよそに比べても見劣りのしないものになっていると言えます」と語る。
また、プレス加工について坂本社長は「量産をやる以上、メンテナンス、保守が重要です。金型がうまく流れなければ、金が流れないわけですから。だからどうしても常に1,2名が保守に回る状態になります。そして、無理に新型を入れると亀裂が生じる。金型部門と製造部門のバランスが重要になります。 私の仕事はその調整作業です」との信念を持っている
ワイヤーカットの導入は1986年、NCフライスの導入は1988年、そして今後の金型製作のカギを握るのがCAD/CAMシステムと森安氏の経験値を若年層にどう移行していくかが課題であろう。

2.CAD/CAMシステム

キョーワハーツでは町工場こそパソコンによる効率化が必要不可欠と考え、いち早く10年前からCAD/CAMシステムを導入した。当初はアンドールのCadsuper-SXを導入したが、現在では二次元CAD/CAM Cadsuper-FXを2台、Cam WIN MAX1台を導入している。
アンドールのCadsuper-FXについて坂本社長は「CAD部分はシンプルで操作が覚えやすい」といい、CAMについては「カスタマイズがしやすい」と語る。またシステム構成については「昨年、Windows95版のCADに移行しました。これによってファイル操作などが楽になりました。またネットワークを組んで設計室と現場を結んだので、作業はだいぶ楽になりました」と語る。

システム構成図は図1のとおりである。

図1 キョーワハーツの金型ネットワーク環境

設計室と現場の距離は1階と2階で離れておりネットワークを組むことによるメリットは直接的に出てきたと思われる。
一方、CAD/CAMシステムの構成について坂本社長は「当初、他ソフトメーカーのCADシステムを併用していましたが、一元化を図る意味で Cadsuper-FXに統一しました。今後はDXF(Data Transfer File)での対応が多くなり、ネットワークの重要性が増してきています。また社内データはすべてネットワークで交換しています」と述べ、さらに設計業務については「金型設計が主で、3名のオペレーターがCAD/CAMを操作しています。そして、森安氏が設計した図面を最終チェックしています。そのうち1 名は現場のNCフライス、ワイヤーカットのNCデータ制作が主となっています」と語っている。

3.ネットワークの構築、インターネット利用

坂本社長はネットワークの可能性について次のように語っている。
「インターネットは製造にとって非常に革新的なツールです。まず当社のインターネットの利用方法としては、今まで紙やFD(フロッピーディスク)等で行っていた図面やNCデータの交換をインターネットのメールを使って行う実験をはじめました。これによって打合わせや配達の時間を大幅に短縮できます。
たとえば、得意先に依頼された図面をDXFDATAで送信してもらいます。その回答をCADデータ同士で行うため、寸法の見間違えがありません。そして必要とあればすぐにでも試作やワイヤーカットの加工データに展開できます。設計等に必要なカタログや仕様等をメーカーのホームページから引き出すこともできます。
今後のネットワーク利用の展開としては、当社の協力会社や当社の各工場をネットワークで結び、より早い納期対応に備えていくつもりです」
社内で構築した金型製造技術をより早くネットワーク化に載せようというのも常にコンピューターを利用技術として考える坂本社長の視点があるからであろう。
一方、ホームページについては「当社でも1年前ホームページを立ち上げました。今後はインターネットを活用し、客先や外注先の開拓を積極的に行っていきたいと思います。インターネットはうまく利用できれば情報を集めたり、発信したりで非常に価値がある物だと考えているので、これからもいろいろな分野に応用していきたい」と語る。
そしてホームページの効果については「先日、あるメーカーから見積依頼が来ました。まだ決定ではありませんが、ホームページで仕事依頼が来たのは驚きです。当社でもこれからホームページでの営業展開を考えていかざるを得ない」と語っている。
なお、同社のホームページのアドレスは、
//www.nc-net.or.jp/~kyowa

(株)キョーワハーツ
代表者代表取締役 坂本 悟
所在地本社
〒153-0042 東京都目黒区青葉台2-20-2
TEL(03)3719-6257
港北工場
〒223-0063 横浜市港北区高田町700
TEL(045)593-6116
関連会社(有)アトワンス
〒999-3533 山形県西村山郡河北町西里1361
TEL(0237)72-7508
設立昭和26年5月
資本金1000万円
従業員数16人
事業内容順送を主体とした精密プレス加工、金型設計製作、試作品製作、各種アセンブリ
沿革昭和26年5月 合資会社共和電機興業所設立
昭和33年1月 増資を図り株式会社へ
平成4年1月  株式会社キョーワハーツへ社名変更
平成8年6月  本社工場を目黒区から横浜市港北区へ移転
主な機械設備エアークラッチ式パワープレス(50,45,35,30,20t)、パワープレス(12t,8t)、フットプレス、連続端子巻取機、タッピングマシン2軸、パレル研磨機、シャーリング(700mm)、CAD/CAM、ワイヤー放電加工機(AA500W,A350)、細穴放電加工機(KICS)、放電加工機、成形研磨機、平面研磨機、CNCフライス盤(FM-30)、立型フライス盤、旋盤2m、コンダーマシン、ボール盤、工場顕微鏡(MM-22二次元データ処理装置付)、投影機(PP-70)など

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