第21回 株式会社 リアルファクトリー

( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」 第39巻 第1号 (2001年1月号) )

執筆者 内原康雄

原 雄司さん

今回のデジタルファクトリーでは、初めてソフト・メーカーを紹介させていただく。リアル・ファクトリー〔東京都渋谷区東3-15-7、原雄司代表取締役、TEL(03)5778-2270〕を取り上げたのは、ソフトメーカーでありながら加工を請け負い、その実証実験の結果から得た加工データをソフトウエアの作成にフィードバックしているという1点にある。
 加工品での受注は、売り上げの2割程度を占めているという。加工品の主体は、プラスチック素材の削り物である。ユーザー層はデザイナー、メーカーの商品企画、設計部門、試作業者などが多いとのこと。

CGの使いやすさとCADの精度をもった3次元CAM

アル・ファクトリーの主製品は、「CraftMILL」という3DのCAMシステムである。このCAMシステムは85万円という低価格だ。本記事の趣旨として、同システムを紹介することは本意ではないため、ここでは詳しく触れないことにする。
CAD/CAMの歴史の中で、3次元CAD/CAMの本格利用の兆しが見えたということから、あえて今回はソフトウエアメーカーを紹介するわけである(本当は、かなりCGに近いこのCADが商用に利用できるということに、筆者自身が興味を感じていることにあるが……)。
CADの出現は、製造工程の設計分野を数値化することにより、設計工数を半減するのものであった。さらにCAMの出現は、NC工作機械の工数を軽減した。工場のCAD/CAM化は2次元からスタートしたが、最近ではパソコンの高速化とともに3次元の加工が本格化し始めている。
しかし、3次元CAD/CAMシステムは数年前までは、一千万円クラスのシステムが主流であった。ここ数年のコンピューターのダウンサイジング化の中で、とうとう100万円を切る3次元CAMが出現した。それが「CraftMILL」なのである。
この「CraftMILL」の特徴を一言で言うならば、CGの使いやすさをもちながら、ハイエンドCAMの精度をもっている、と言うことであろう。「CarftMILLを見た瞬間に、使いやすそうなCAMだ」という印象を受けた。「CraftMILL」のユーザー層はどんな方ですか?という質問に、社長の原氏は
「半分以上が製造現場の方で金型屋さんもいます。趣味で利用している方もいますね」と説明してくれた。デザイナーや製品設計者のための配慮として、「3カ月に1回しか利用しないユーザーのために、なるべくマウスだけで簡単に操作できるようにしています」。「CraftMILL」のユーザーインターフェイスが使いやすいのはそこにある。
それではリアル・ファクトリーのWebを見てみよう。宇宙人からカメラ、携帯電話、シャフトなどバラエティに富んだ製品群が紹介されている。CraftMILLの主とした特徴は、ユーザーの使いやすさである。切削加工時間については安全性を重視するために、デフォルト値ではスピードは遅い。
しかし、「金型屋さんなどはデフォルト値を変えて、スピードを重視するように設定を変更しているようです」と原氏。
さらに「もともと、デザイナーや試作設計者が簡単に試作ベースの切削ができるようにという構想でスタートしたCAMです。ところが、最近、金型屋さんをはじめとするプロの切削加工屋さんからの引き合いも多くなってきました」
さらに原氏は、「どんどんプロの切削加工屋さんにも利用していただきたいですね。弊社の製品はユーザーインターフェイスを最重点に作られていますが、それをプロの切削加工屋さんに利用していただいて、その評価などをフィードバックできるれば幸いです」と語る。

リアルファクトリーのサポート体制

Craft MILLで作成した切削サンプル例

さて、リアルファクトリーのCAMが使いやすいインターフェイスでできているのがご理解いただけると思うが、同社のユーザーサポートも紹介しなければならない。
出荷本数70本の「CraftMILL」だが、ユーザーからの電話での問い合わせは極めて少ない。その理由は「CraftMILL」のシンプルさとともに、Webやメールを通じたユーザーサポート体制にある。ほとんどのユーザーは問い合わせにメールなどを利用している。
ユーザーカードを返送したユーザーに対して、それぞれIDを発行しており、このIDで専用のWebサイトにログインできる。サイト内には最新評価版ダウンロードや掲示板、FAQなどがあり、これらはの情報は日々更新されている。メールでの問い合わせも迅速に対応している。不具合があればすぐにプログラムを見直し、取り急ぎ問題のあるデータを修正してユーザーに返す。その後、詳細な原因を追求してからユーザーに対して説明するというスタイルだ。
これはやはりソフトを自社開発している強みである。また、「CraftMILL」を使って実際に切削加工をすることで、ユーザーが抱える根本的な問題から日常の問題まで自身で実感するようにしている。これらはユーザーからの情報とともに開発にフィードバックするようしている点も、他のCAMソフトベンダーと異なる点だ。

まとめ

以上、リアル・ファクトリーの製品を見てきた。はじめにも言ったとおり、商品の紹介をするのが本意ではない。製造業のIT化はインターネットを通じて、大きな変革期にある。その中心に位置付けられるのが図面の数値化、すなわちCADによる製品設計、およびCAMによるNC工作機械へのデータ出力である。
3次元による製品設計・加工は、製造業のIT化を大きく革新する。米国では「Alibre」というような3次元のASPも登場している。
日本でも本格的な3次元設計・加工時代の到来に向けて、「Carft MILL」のような製品が登場したことは、製造業の3次元化に加速をする位置付けになるであろう。

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