第17回 事業承継円滑化のための税制措置-事業承継

事業を承継する際には、相続税、贈与税、又は所得税といった様々な税金を負担する可能性があります。世代の交代期を迎えた中小企業の後継者が事業承継を行う場合、相続税、贈与税、又は所得税の特例措置を受けることができます。

1. 対象者

(ア) 非上場株式を相続又は贈与により取得した中小企業の後継者
(イ) 特定小規模宅地を相続した個人事業者・中小企業の後継者

2. 特定小規模宅地とは

特定小規模宅地には、特定事業用宅地と特定居住用宅地があります。

(ア) 特定事業用宅地
特定事業用宅地とは、
 相続開始直前において被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場及び準事業を除く)の用に供されていた宅地等で、
 その宅地等を取得した人の内に次の全ての要件に該当する親族がいる場合
をいいます。
以下の要件とは、
① その宅地等が、被相続人の事業の用に供されていた場合
 その宅地等の取得者が、その宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を申告期限までに承継し、かつ、その申告期限までその事業を営んでいること
 相続税の申告期限までその宅地等を所有していること
② その宅地等が、被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用に供されていた場合
 その宅地等の取得者が、相続開始から相続税の申告期限までその宅地等の上で引き続き事業を営んでいること
 相続税の申告期限までその宅地等を所有していること

(イ) 特定居住用宅地
特定居住用宅地とは、
 相続開始直前において被相続人等の居住のように供されていた宅地等で、
 その宅地等を取得した人の内に次のいずれかの要件に該当する親族がいる場合
をいいます。
以下の要件とは、
① その宅地等が、被相続人の居住の用に供されていた場合
 被相続人の配偶者
 被相続人と同居していた親族で、相続開始時から申告期限まで引き続き居住し、かつ、その宅地等を有している人
 被相続人の配偶者又は相続開始直前において被相続人と同居していた法定相続人がいない場合において、被相続人の親族で相続開始前3年以内に日本国内にある自己又は自己の配偶者の所有に係る家屋に居住したことがない人で、相続開始時から申告期限間その宅地等を有している人
② その宅地等が、被相続人と生計を一にする親族の居住の用に供されていた場合
 被相続人の配偶者
 被相続人と生計を一にしていた親族で、相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、その宅地等を有している人

3. 措置の内容

(ア) 非上場株式に係る相続税の納税猶予制度(相続税)
経営承継法における経済産業大臣の認定を受けた非上場中小企業については、その後継者が先代経営者から相続により自社株式を取得した場合に、自社株式に係る相続税の80%を猶予することができます。ただし、相続前から後継者が既に保有していた議決権株式を含めて、発行済完全議決権株式総数の2/3が上限です。
<経済産業大臣の認定を受けるための要件>
① 中小企業基本法上の中小企業であること(第1回参照)
② 後継者(相続人)が先代経営者の親族であること
③ 先代経営者及びその同族関係者が発行済株式総数の50%超を保有し、かつ、先代経営者がその同族関係者(後継者を除く)の中で筆頭株主であったこと(過去のこと)
④ 後継者及びその同族関係者が発行済株式総数50%超を保有し、かつ、後継者がその同族関係者の中で筆頭株主であること(現在のこと)
⑤ 相続後5年間、雇用確保を始めとした事業継続要件を満たすこと

(イ) 非上場株式に係る贈与税の納税猶予制度(贈与税)
経営承継法における経済産業大臣の認定を受けた非上場中小企業については、その後継者が先代経営者から一括譲渡により自社株式を取得した場合に、その自社株式に係る贈与税の全額の納税を猶予することができます。ただし、贈与前から後継者が既に保有していた議決権株式を含めて、発行済完全議決権株式総数の2/3が上限です。

(ウ) 特定小規模宅地の減額(相続税)
「2.特定小規模宅地」に該当した場合、400㎡までの特定事業用宅地と240㎡までの特定居住用宅地は、評価額の80%が減額となる課税の特例を受けることができます。

(エ) 非上場の相続株式を自社に売却した場合の課税の特例(所得税)
非上場株式を相続した個人が、相続税の申告期限から3年以内に発行会社に相続株式を売却した場合、みなし配当課税(最高50%の累進課税)ではなく、譲渡益全体についての譲渡益課税(20%一定)が適用できます。

(オ) 相続時精算課税制度(贈与税・相続税)
相続税の申告時に、「相続時精算課税選択届出書」等の必要書類を添付することで、贈与時に軽減された贈与税を納付し、相続時に相続税で精算する課税制度を選択することができます。

4. 問い合わせ先

・国税庁、国税局又は税務署の税務相談窓口
 電話:03-3581-4161
 HP:http://www.nta.go.jp/
・中小企業庁 財務課
 電話:03-3501-5803

執筆者紹介
大井 宏明(おおいひろあき)

株式会社ルーキー
代表取締役社長

公認会計士。慶應義塾大学経済学部卒業。1999年から監査法人トーマツにてベンチャー企業の株式公開支援業務、法定監査業務、その他各種コンサルティング業務に従事。2005年末に監査法人トーマツ退社後、2006年初から上場準備企業の取締役CFOに就任し、上場準備業務の統括責任者となる。2008年株式会社ルーキーを設立、代表取締役社長に就任。経営戦略立案や社内体制整備等の各種コンサルティング業務を実施している。
株式会社ルーキーホームページ:http://rookie-japan.com

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