特集:「食」のものづくり

オタフクソース株式会社

オタフクソース株式会社

お好み焼と共に歩む

オタフクソース株式会社

広島を代表する鉄板料理「お好み焼」。現在、お好み焼店は広島市内だけで約800軒あり、広島県民に聞くと週に2回は食すという声も珍しくない。店によって、焼く人によって味は異なるので、飽きることはない。

この広島の味を支えるのが、「オタフクソース」だ。お好み焼と言えばオタフクソースと言われるほど、今では知名度が高い。しかし1922年の創業時は、ソースではなく、酒や醤油の卸小売業を営んでいた。1938年に酢の製造を開始。そのときつけたブランド名「お多福酢」が現在の社名の原点となっている。原爆投下により店は全焼したが、1946年に醸造酢の製造を再開。1950年には「これからは洋食の時代」とのアドバイスを受け、ソースの製造と販売を開始した。

そのころ、広島の復興は、まさにお好み焼と共にあった。軍都ゆえ鉄板は手に入りやすく、小麦粉はアメリカからの配給品。主婦が、自宅の台所を改造してお好み焼店を開くことも多かった。市内中心部には、夜になるとお好み焼の屋台が並んだ。

ソースづくりを始めたとはいえ、後発のため全く取り扱ってはもらえなかった当初は、一軒一軒飲食店をまわる日々が続いた。そんなとき、お好み店の店主からある悩みを聞いた。

当時主流のウスターソースは、お好み焼にかけると鉄板にさらさらと流れ落ちて焦げてしまうという。そこで、お好み焼に合うソースを作ろうと、店主に意見を聞いては作り変え、とろみをつけるなど試行錯誤すること2年。こうして、1952年、オタフクの「お好み焼用」ソースが生まれた。

原料・製法にこだわる



上:ソース充填機
下:特注ソース用の釜
 

現在、オタフクソースの年間生産量は約42,000kl、1日あたりの平均生産量は180klになる。180klというと、家庭用お好みソース500g換算で約42万本になり、広島お好み焼1枚あたりに使用されるソース60gで計算すると、約360万枚分相当だ。

オタフクソースでは、お好みソースだけでなく、焼そばソース、たこ焼ソース、酢やたれなど多くの商品ラインナップを揃える。生産品目の数では、消費者向けのオタフクブランド商品より、特注で製造しているソースの方が多い。1日あたりの製造数は約50品目にものぼるという。

小ロットのソースを作り出す釜の一部は、あん練り機で有名なメーカーのものを使用。あんこの場合は羽根が水平に回転するところを、ソース用に軸を斜めに改良されたものだ。 工場は、高層化した4フロアからなり、会社の成長に伴い建て増ししたために、迷路のように入り組む。工場内の自動化は進み、液体原料を中心に屋外にある26基の各タンクから送られ、粉末原料はエアーによって釜まで送られる。以前は力仕事のイメージが強かった工場だが、オタフクソースでは作業補助具を導入したり、ラインの自動化を進めることによって、女性でも活躍できる職場づくりを進めている。会社が運営する託児所の開設、女性管理職の登用にも積極的で、現在では約4割が女性社員となった。

オタフクソース株式会社

もちろんオタフクソースの一番のこだわりは、その厳選した素材のブレンドにある。野菜果実たっぷりのお好みソースに一番多く使われている原料はトマト。次はデーツというナツメヤシの実で、中近東から輸入している。砂糖の値段が高騰した1975年頃、甘みのあるデーツに切り替えたのだが、砂糖のほうが安価になった現在も使い続けている。特徴ある甘みとコクがあり、栄養価も高いからだ。

そのほか、製法にもこだわっており、こしょうの一部は石臼でひき、一部のソースに使用している。工場内には、約500品目にのぼる香辛料などの原料が香り、食欲をそそる匂いが充満している。

こうした味を家庭で楽しめるように開発したのが、家庭用お好みソースなどを入れる容器「フクボトル」だ。とろみが強いソースを出しやすい構造になっており、まげに強いポリプロビレン、空気を通しにくいエバール、フレーク層(エバール・ポリプロピレンの混合素材)から成る。フクボトルの採用により、保存性が高まり、広島県外へと出荷が広がる契機となった。

食べる、作る、経験で伝える

オタフクソース株式会社

お好みソースは、お好み焼の味の決め手になるものの、まずお好み焼を広めなければソースも活かされない。オタフクソースでは、単にソースを売ろうとするのではなく、お好み焼という食文化自体を広めようとしている。

その拠点として、本社工場近くで運営するWoodEggお好み焼館には、お好み焼に関する展示や、実際に調理体験する施設がある。また、広島だけでなく、仙台・東京・大阪・福岡では、これから開業を目指す人のための開業研修も行う。まずは各地に美味しいお好み焼店が増えていくことが、食文化として根付く要件となるとの考えだ。

世界展開も同様に、お好み焼文化を伝えたい。近年では、多くの外国人がWoodEggを訪れ、お好み焼と広島の歴史を学び、お好み焼づくりを体験するという。こうして、平和都市広島の象徴であるお好み焼が、世界に向けて発信されている。

お好み焼を世界へ

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海外では、2013年に中国青島とアメリカのロサンゼルスで工場を稼働開始。そして、2016年にはマレーシア工場が稼働した。マレーシア工場では、ムスリムのために肉やアルコールを使わないなどのハラールに対応。食材から製造環境まで徹底し、世界的に厳しいことで知られるマレーシアJAKIMのハラール認証を取得した。

現在、海外では主に日本食レストランなど飲食店向けの業務用ソースの製造を行っているが、一方でお好み焼文化を広く知ってもらうために、展示会やイベントに出展し、実演販売にも力を入れている。現地の人にお好み焼に親しんでもらい、お好み焼の美味しさを知って、再び食べたいと求めたり発信してくれることが、一番の口コミ宣伝だと考えている。

社長の佐々木直義氏は、「お好み焼は、栄養価が高く、野菜も豊富で健康的な食べ物なんです。先の代では日本全国にお好み焼が広まりました。これからは世界の人に味わってもらう環境を整えたい」。食卓の和と、世界中の人たちの健康の礎となることを社会的使命と捉え、お好み焼が世界で愛される未来を描く。

今、広島ではお好み焼店の後継者難がひとつの課題だという。また、中食需要の高まりから、スーパーや百貨店のお惣菜コーナーでも、お好み焼は人気が高いが、残念なことに焼き手不足が懸念される。こうしたお好み焼を取り巻く環境変化と課題に目を向けることも使命という。広島でお好み焼に育てられた企業として、業界発展に繋がる取り組みにも意欲的だ。世界にお好み焼文化を広めるために、挑戦は続く。

オタフクソース株式会社

設立

1922年

所在地

〒733-8670 広島県広島市西区商工センター7丁目4-27

TEL

082-277-7111

FAX

082-277-3879

URL

http://www.otafuku.co.jp

売上高

236億円(お多福グループ5社連結)

事業内容

ソース、酢、たれ、その他調味料の開発・ 製造・販売。

 

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