第23話 ものづくりは最高だ(2)

「ジョニー」

「ジョニー?さすがエキスパート様。俺のことなんて、呼び捨てですか?」

「いや、ジョニーさん、ジョニー様。悪かったよ。許してくれよ。確かにおまえのこと忘れていたのは本当のことだし、言い逃れできないけど、許してくれよ。オレ、おまえがいなかったら金型つくれないし、それにおまえのおかげで彼女もできたし、というか、オレこんど結婚しようかと」

「結婚? 誰と? 」

「いやあ、オレ、このプロジェクトが中止になって、なんかすっかり何もかもイヤになっちゃってさ。会社来てもやることがあるわけでなく、そりゃ、ほかのプロジェクトのアシスタントみたいな仕事はまわってくるけど、そんなの一所懸命取り組めるモチベーションもないし、すっかりグレちゃって。
毎日、定時で帰っては飲み歩く日々でさ。そんなもんだから、会社来ても朝は二日酔いで気持ち悪くてトイレに入り浸りで、でも、あんまりトイレに長くいられないから、会社に対する腹いせもあって、役員フロアのトイレで毎朝ゲーゲーしていたのよ。
そんなときに声かけてくれて、こんなオレの話聞いてくれて、慰めてくれて、励ましてくれて、叱ってくれて、そのうちオレその人のこと好きになっちゃって。
頭から離れなくなっちゃって、その人のこと考えると、なんか胸が苦しくなるというか、会えなかった朝には、鼻の奥がツンと痛くなるような感じになっちゃってさ。思い切って、気持ちを打ち明けたんだ」

「だから誰だよ。まえふり長えよ、お前」

「うん、だから、そのおまえ、あれだよ。察しろよ、照れるじゃねえか」

「察しろって、金型に向かって何言ってんだよ、お前。早く教えろよ」

「だから、絶対にナイショだぞ。あのなあ、秘書課の伊東さんだよ」

EMIDAS magazine Vol.28 2012 掲載

※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません

 

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