菅沼が汗だくになっていた。
「うー、ですからね……遅れ遅れではありますが……そのー、かならずなんとかしますんで。だから……えーと……」
菅沼と明希子は、社長室の応接セットで材料業者の小喜多と向かい合っていた。
「あのー、じつは設備投資をしてですね……ところが、えー、思うように注文がですね……」
しどろもどろで言い訳する菅沼を、小喜多はさもたのしそうに、にこにこと眺めていた。
「それで、ですね……」
「暑いのかの?」
菅沼に向かって小喜多が言った。
「いやさ、工場長ってば冬だというのに汗びっしょりになって、暑いのかなあ思ってな」
菅沼が作業ズボンのポケットからハンカチを出して、ごしごし顔を拭きはじめた。
「いやー、ひとが悪いなあ、小喜多さんも」
小喜多は七福神の恵比寿さまによく似た顔で、相変わらずにこにこと菅沼を眺めていた。
「小喜多さん、うちとお宅とは長いつきあいだ。そこんとこ事情を酌んでくれませんか。頼ンます」
菅沼が耳の上にだけわずかに髪が残った頭を下げた。
小喜多がにこにこ顔をこんどは明希子のほうに向けた。
「そうかね、あんたが社長の娘さんかね」
「はい、花丘明希子です」
「で、こんど社長の跡を継いだと」
「はい。よろしくお願いします」
「社長には――あー、先代社長には、うちもたいへんお世話になりましてね」
小喜多はにこにこと明希子を眺めていた。
「ようがしょう。もうすこしだけ待ちましょう」
「ありがとうございます」
明希子は言って深々とおじぎした。
「頼ンます」
と、隣で菅沼も深く頭を下げた。
「けど、あぶないなと思ったら、即刻搬入はストップさせてもらいますよ。まあ、もうじゅうぶんにあぶないところではあるんですが、ね」
「んな……小喜多さん、そしたら、うち、完全にお手上げですよ」
菅沼が泣きそうな声を出した。
小喜多がにこにこ顔で明希子に向かって言った。