第6話 ドア

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菅沼が汗だくになっていた。

「うー、ですからね……遅れ遅れではありますが……そのー、かならずなんとかしますんで。だから……えーと……」

菅沼と明希子は、社長室の応接セットで材料業者の小喜多と向かい合っていた。

「あのー、じつは設備投資をしてですね……ところが、えー、思うように注文がですね……」

しどろもどろで言い訳する菅沼を、小喜多はさもたのしそうに、にこにこと眺めていた。

「それで、ですね……」

「暑いのかの?」

菅沼に向かって小喜多が言った。

「いやさ、工場長ってば冬だというのに汗びっしょりになって、暑いのかなあ思ってな」

菅沼が作業ズボンのポケットからハンカチを出して、ごしごし顔を拭きはじめた。

「いやー、ひとが悪いなあ、小喜多さんも」

小喜多は七福神の恵比寿さまによく似た顔で、相変わらずにこにこと菅沼を眺めていた。

「小喜多さん、うちとお宅とは長いつきあいだ。そこんとこ事情を酌んでくれませんか。頼ンます」

菅沼が耳の上にだけわずかに髪が残った頭を下げた。

小喜多がにこにこ顔をこんどは明希子のほうに向けた。

「そうかね、あんたが社長の娘さんかね」

「はい、花丘明希子です」

「で、こんど社長の跡を継いだと」

「はい。よろしくお願いします」

「社長には――あー、先代社長には、うちもたいへんお世話になりましてね」

小喜多はにこにこと明希子を眺めていた。

「ようがしょう。もうすこしだけ待ちましょう」

「ありがとうございます」

明希子は言って深々とおじぎした。

「頼ンます」

と、隣で菅沼も深く頭を下げた。

「けど、あぶないなと思ったら、即刻搬入はストップさせてもらいますよ。まあ、もうじゅうぶんにあぶないところではあるんですが、ね」

「んな……小喜多さん、そしたら、うち、完全にお手上げですよ」

菅沼が泣きそうな声を出した。

小喜多がにこにこ顔で明希子に向かって言った。

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