明希子は小川を社長室に連れて行った。応接セットのソファを示して座るように言ったが、彼は立ったままでいた。
明希子は執務机の椅子にかけた。
「好きなの?」
小川が虚ろな表情を向ける。
「パチンコ。好きなの?」
首を振った。
「じゃ、どうして?」
「………」
明希子はちいさくため息をついた。
「はじめてだったの?」
「3回めです」
そうこたえてから、
「すみませんでした」
頭を下げた。
「仕事はどう? たのしい?」
小川は黙っていた。
「いま会社の状況がよくないの。小川君には期待しているのよ」
彼はうつむいたままだった。
そこで、明希子は話題をかえてみた。
「ねえ、高柳部長のことなんだけど」
あるいはこちらのほうこそききたかったことなのかもしれなかった。小川は、ふたりしかいない営業部で高柳の直属の部下である。
彼がさっと顔を上げた。
「僕、責任とりますから」
「小川君……」
「責任とりますから!」
興奮したように言う。
その時、執務机の電話が鳴った。
「ちょっとごめん」
小川に言って明希子は受話器をとった。