「繋ぎの資金て、そりゃ、ほんとうですか!?」
菅沼が声を上げた。
「それなら当面なんとかなる額じゃないですか!!」
「ええ、信金の専務理事が約束してくれたの」
ほんとうだった。
明希子は、専務理事に花丘製作所の台所事情を包み隠さず伝えた。そして、すかさず自分のつくった事業計画書を見せ、プレゼンテーションした。
プレゼンは広告代理店にいたころから得意だった。自分は女性経営者という視点から環境を重視し、“医療”“美容”“健康”を柱に新機軸を打ち出してゆくのだと、多少の風呂敷(じつは大風呂敷もいいところだった)を広げつつ、よどみない弁舌で花丘製作所の今後の展開を語り尽した。なにより明希子は必死だった。
すると、半眼の表情で自分の話を聞いていた(聞いてくれていたと思う)専務理事が、こんなことをたずねてきたのだった。
「アッコさん、あなたは5年後、なにをしていますか?」
「5年後、ですか……」
明希子は突然のそんな質問にうろたえた。
――5年後……そんなこときかれたってわからないじゃない。たぶん、花丘製作所の社長をつづけているんだろうな。でも、5年後にはたして会社はあるんだろうか? わたしだって、結婚しているかもしれないし、子どもだって産んでるかもしれない。結婚かあ……。しばらく恋愛もしてないよなあ。大学時代からつきあってたカレとは、仕事に夢中で擦れちがいがつづいてるうち、なし崩しに別れちゃったし……。そういえば、わたしってば、仕事ばっかりしてきたよなあ。仕事ばっかり。ほんと仕事ばっかりだったよなあ。
「……まわりにいるひとみんなが笑顔でいられたらいいですね。いまはなにもできないでいるんですけれど」
明希子はそうこたえていた。
「よろしい! 協力させていただきましょう!!」
「専務理事!」
職員が横からあわてて口を挟んだ。
「無茶ですよ」
「なにが無茶だ。地元中小企業の味方になって地域経済を活性化させるのが我々の本来の使命じゃないか」
専務理事が明希子に向きなおった。
「アッコさん、あなたのお父さんにはひとの値打ちを見抜く力がある。眼力ってやつですな。そして、もっと素晴らしいところは、いちどこうと見込んだら、その相手をとことん信じるところだ。信じることのできる大きさがあるところだ。私もそれを見習いたいと思ったし、そうしてきたつもりだ」
専務理事が明希子の眼を覗き込むようにした。
「アッコさん、私はあなたを信じていますよ」
「信頼におこたえできるようがんばります」
明希子は言った。