第10話 新しい力

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「よー、アッコちゃん、例のエコ・トイレ、どんな感じ?」

入江田が声をかけてきた。

「順調よ。いま、設計が終わって部品加工にとりかかってる」

「そうかい」

うれしそうに微笑んだ。

吾嬬町ネットワークの新年さいしょの会合だった。

「ところでさ、あんたにぜひ紹介したい男がいるんだよね」

そう言って、あたりをきょろきょろ見まわした。

「えーと、久しぶりに顔を出してたと思ったんだけどな――と。お、いたいた」

視線の先に、律儀そうに一礼している男の姿があった。

「おーい、こっちこいや」

入江田に呼ばれて、縁なし眼鏡に長めの七三の男性がこちらにやってくる。

「藤見さん」

「先日は失礼しました」

藤見がこんどは明希子に向って頭を下げた。

「なんだ、知ってたのかい? こないだの小野寺といい、おれが紹介しようとするやつは、みんなアッコちゃんと知り合いなんだもんな」

そこで入江田が、

「あっ」

思い出したように言った。

「そういや、小野寺がまた3人でいっしょに食事でもって、言ってたんだ」

――小野寺さんが。

「いや、おりゃあ、3人なんて言わねえで、直接アッコちゃんを誘やあいいじゃねえか、って言ったんだけどね」

会合のあと、近くにある居酒屋での新年会で、入江田と藤見、明希子はおなじ卓を囲んでいた。いやらしい笑みを浮かべた井野が、「ヒヒ」さかんに席に加わろうとしていたが、入江田が追い払った。

「いやさあ、こいつ、立派なんだ、えらいんだ。なにしろ、クルマだのなんだの自分ちのもんも一切合財処分して、それ退職金にあててさ、おまけに従業員の再就職先も世話してやったっていうんだから」

入江田が言うと、藤見が、

「すこしもえらくありませんよ。なにしろ会社を潰しちゃったわけなんですから」

その言葉に入江田もめずらしくしんみょうな表情になって、

「まあ、飲めよ」

藤見のぐい飲みに酒をそそいだ。

「7年がたちました。うちの、藤見製作所の仕事をするようになってから。ことしで8年め。そして、それは迎えられなかったわけです」

藤見が語りはじめた。

30歳の夏休みに久しぶりに実家を訪れた藤見は、家業の現状を眼の当たりにして愕然とする。社長である父もすでに還暦を過ぎ、祖父の代からの工場長もみな高齢だった。迷った末、藤見は、「継ごうと思うんだけど……」切り出した。

※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません

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