kataya

小説『削り屋』出版記念座談会 — 下 —

語り手(登場順)

上野 歩 氏
作家。小説すばる新人賞受賞にてデビュー。(公式ホームページ《上野亭かきあげ丼》
茂原 純一 氏
株式会社モハラテクニカ代表取締役社長。群馬県高崎市で精密板金加工をおこなう。小説冒頭のケンカシーンなどに取材協力。(会社情報はこちら
藤原 多喜夫 氏
株式会社ヒューテック代表取締役社長。大阪市の精密金属部品加工をおこなう「削り屋」。小説の核となる、削りにおいて取材協力。(会社情報はこちら
後藤 敏公 氏
株式会社みづほ合成工業所代表取締役社長。名古屋で樹脂成形をおこなう。小説のWEB連載時、掲載写真のすべてを撮影。(会社情報はこちら
樽川 久夫 氏
アルファ電子株式会社代表取締役社長。福島県で医療機器、電子機器の組立なををおこなう。主人公に多大な影響を与える会社社長・毛利樽夫のモデル。(会社情報はこちら

削り屋の現場

藤原
結局、削りの現場ってセンスがあるかないかで決まるんですよね。手先の器用さもそうですし、気が弱い子も向いていない。気が弱いと心配性になるから、図面の数字通りに削ろうとする。反対に、気の強い子は失敗を恐れず思いきりよく削る。失敗した数のぶんだけうまくなるのは早いですよ。失敗のなかから学んで、どれだけ早くモノにするかはセンスでしょうね。怒られて萎縮しているようでは伸びてこないです。拳磨のようにケンカするくらいじゃないと。
上野
ケンカって(笑)
藤原
まあ、負けず嫌いな方が多いですよね。

茂原
気が弱かったら経営者にもなれないしね。

職人の道vs最新技術

藤原
いくら削りがうまくても、ライセンスを持っていないと無免許でしかないですよね。たとえば、自分の家族が病院で手術するとなったとき、すご腕の無免許医とライセンスを持っているお医者さんとどっちに切ってもらうか、という問題と同じです。ライセンスを持っているお医者さんを選ぶ人が多いんじゃないかなあ。だから、ライセンスや技能五輪といった、社会的に証明になるものは持っていたほうがいいんですよ。
上野
小説にも出てきますね。拳磨が技能五輪に出るための検定受けるシーンで、師匠のオニセンが「筆記もうけろ」と。セリフでは言っていませんけど、そういう態度をとらせています。
藤原
我々の先輩世代はライセンスなんてなくたって飯が食えるわけです。でもこれからの時代は絶対に資格があった方がいいんですよ。いくら「俺は職人や」と素晴らしいものを削っても、なかなか日の目を見ないんですよ。オニセンは実体験からそれを知ってるので、「俺は職人として凄いと言われてきたけども、後を継ぐ人間には光の道を歩いてほしい」と思っているんじゃないですかね。結局、NC機を選んだ樽夫社長が正解なんだと思う。だからオニセンは、拳磨を樽夫社長のもとへ送り出すんだと思うんですよね。

会社を変える人材とは

茂原
今は人手不足ですよ。いい人財もだけど、労働人口そのものが少ない。群馬県は年間離職人数が26,000人くらいなのに、就職する人が15,000人しかいない。労働人口が11,000人減って、高齢化してきています。
藤原
そんな時にもし拳磨くんみたいな子が会社にいたら……たぶん辞められるのを怖がるだろうなあ。センスがあればあるほど、大事にしたくなる。でもセンスがありすぎると、どう接していいもんかと。
茂原
それはみなさん経験してますよね。
藤原
でもそんな人財を見つけるのは、それこそ面接じゃわからない。
茂原
インターンシップなどで、実際の現場でものを触ってもらえればだいたいわかってきますけどね。1週間か10日くらいあれば。
後藤
ものを触らせたあと、感想を聞けば良くわかりますよ。「これどうなんですか?」って、もう次に返ってくる返事でわかる。
藤原
好奇心は大事ですよね。指導してもらってるのに、ただ説明を受けているかのごとくとらえているのはダメ。今の若い子は、小さなころから画面を見て育って、情報は一方通行にもらえるものだと思っているふしがある。だけど、質問されたら答えを返すという根本的なところが重要。いい質問が返ってくると、嬉しくなりますね。
後藤
それはよくわかるなあ。気質的なセンスの光る子と、技術のセンスがある子はまた違いますしね。

藤原
この世界を選んだけども、この世界に選ばれなかった子もいる。自分で好んでものづくりの世界に入ったけれども、毎日同じことを繰り返す地味さに耐えられない子は、頭がよくても性格がよくても続かないですね。
茂原
学歴はまったく関係ないですよ。お互い人なので、人間関係も上手にやれて好かれる子は、伸びる。ただ、伸びる時期というのは人によって違うのでわからないですけれど。

藤原
別のチームに入って変わる場合もありますしね。少人数より大人数のチームの方が向いてるとか、グループ編成で組み合わせを変えたとたんに伸びたりとか。気の合うもの同士だとだれてしまうけど、ちょっと緊張感のある相手と組ますと両方伸びることも多いです。人って、ライバルを見つけると努力するんですよね。
樽川
一人が変わると、何十人もが変わることもありますしね。たった一人「やればできる」という可能性を持っている人がいれば、会社全体が変わったり、ビジネスに繋がったりしますから。そういう人を先頭に立たせれば、みんなも「やってみるか」と手助けしはじめるわけですよ。それは技術力ではなく、人を変える力。

上野
技術以外のことも大切なんだなというのは、大きな発見でした。技術を磨くことではなく、人が使うものを作ることが「ものづくり」なんですね。

(聞き手:河野桃子)
※「KATAYA~金型物語~」……NCネットワークホームページ/エミダスマガジンにて連載。現在もWEBで読むことができます。

<終わり>

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