第1回 (株) 都築バネ製作所

( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」第36巻 第3号(1998年3月号))

執筆者 内原康雄

金型メーカーにとって既成技術の蓄積とコンピュータ技術の融合は切っても切り離せない状況になっている。金型技術が工作機械の技術になりつつある現在、CAD/CAMをいかに有効活用しNCデータを作成するかが金型メーカーに利益を生み出す最大のポイントとなった。
デジタルファクトリー最前線ではパソコンやEWS等のコンピューターを利用したモノ作りに焦点をあてる。
日本のCAD/CAM業界は今、玉石混交である。様々なメーカーが輸入物、国産問わず製品(CAD/CAM)を乱売している。数万円の安価なCADからフルセットで千数百万円のCAD/CAMシステムまで様々なモノ作りがなされている。
本稿はあくまでも中立の立場で、いくらのシステムがいくら利益を生み出しているのかを解説するつもりである。各回に1.2社の具体例を紹介する。
各メーカーで使用しているCAD/CAMのメリット、デメリットも紹介する。
自動車でもオーディオ機器でもそうだが世の中に万能なモノはない。そういった意味であくまでも利用技術という視点で見ていただくのが本稿を読みかたである。

(株)都築バネ製作所

都築バネ製作所は葛飾の中央部白鳥にある。この地域は昔からのおもちゃメーカーの下請けを始めとして、多くのプレスメーカーが乱立している。その中でも高精度、高品質を売り物にしているのが本稿の都築バネ製作所である。
「顧客に信頼され満足を提供する」を理念に大手弱電メーカーを主得意先とする。薄物の線バネには定評がある。
「試作から量産までの一貫加工を短納期で納めるのが特徴です」と都築専務は語る。
「試作はどんなに難しくても1週間。それがお客さまの注文です。それに答えられないと今は仕事が来ません。さらに量産の順送型の仕上げも短納期。厳しい世の中になりました」
バブル崩壊後、都築バネ製作所も他社の例に漏れず大きな変換期が来たという。

不況期に大型設備導入

不況下の中、ここで新型のワイヤーカット、CAD/CAMシステムの大型設備を投資している。
ワイヤーカットは精度が必要として三菱電機の高精度機を導入CAD/CAMは以前から使用していたアンドール社(神戸本社)のCADSUPER-JXを核にシステムを拡大。CADSUPER-JX 2台とCAMCORE-HANDY 1台を設置した。
それをLAN(ローカルエリアネットワーク)で繋ぎ、パソコンサーバー 1台でCAD/CAMを統括するシステム構成となっている。
さらに三菱電機のワイヤーカットにはCAMからRS232Cで直接NCデータを送り込むようになっている。(図1システム構成図)

これによりデータの流れが設計から製作まで1つになった。
この投資に関して都築専務は「うちが生き残るにはどうしても必要な設備。これまでの金型製作システムでは、もうよそには追いついていけない」と判断したそうである。

蓄積技術とCAD/CAM技術の融合

CAD/CAMシステムを構築するため、新卒のオペレーターに加え、CAD/CAMも扱える職人を入社させた。
「今後の金型製作はCAD/CAM中心となります。パソコンLANを構築したことで作業の流れがスムーズになりました。うちは以前からの職人1名と20~30代の5名で金型を製作してますが、全員がCAD/CAMのオペレータになるように教育をすすめてます」
パソコンの教育だけでなく、金型設計の教育にも力をいれている。墨田中小企業センターの半年間講習に若いスタッフを毎年送り出している。
スタッフが若いので技術力をどうバトンタッチするかが大きな課題となっている。それには時間をかけて経験を積み上げることが肝要であろう。
「これまでの技術の蓄積とCAD/CAM技術の融合が生き残りの戦略」
都築専務は断言する。

LANの拡大、得意先とのデータ取引

ここにきて都築バネがトライしているものにCADデータ取引の推進がある。(図2)
社内でのLANが完成し、外部からの図面データを社内で直接加工出来るようになった。
これまではFAXや得意先に直接図面を取りに行っていた図面をCADデータで受注するのである。
「今はメインの得意先に売込をかけています。うちは試作も多いので、得意先から直接CADデータをもらえれば納期も短縮できて、合理化できる。うちも得だし、得意先にとってもメリットがある」と都築専務。
同業他社でそこまで情報装備している会社はまだ少ないという。
また共同受注の試みとして、同じ葛飾区内のインターネットプロバイダー「NCネットワーク」にデータベースを掲載している。
これにより、得意先、都築バネ、受注先と図面データの管理が1本化された。
今後の金型製作にCADデータ取引は欠かせないと都築専務はいう。
円安により日本に戻ってきた試作、小ロット生産部品、これらに短納期対応するのが、今後の弱電部品の在り方であろう。

まとめ

デジタルファクトリー最前線第1回目はパソコンベースのLANを構築した都築バネ製作所を取り上げた。
中小製造業におけるインターネット普及率は7%程度といわれている。しかし、本稿の都築バネ製作所ではCAD図面のデータ取引に焦点をあてインターネットへの取り組みを始めている。CAD/CAMを装備している部品メーカがどのような形でネットワークに取り組むのか?またどのようにFA化を推進していくのか?
デジタル化に取り組む姿勢を見せている部品メーカーを紹介しながら未来の製造業の在り方を論じたい。

新規会員登録