第3回 東邦発条株式会社

( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」第36巻 第5号(1998年5月号))

執筆者 内原康雄

東邦発条株式会社は東京の墨田区に本社を置き、茨城県麻生町、静岡県三島市に工場を展開している
今回は主力工場の麻生工場のレポートである。。
主業務として金属プレス加工、金属プレス金型製作をはじめマルチフォーミング加工、熱処理、塗装、組立、等をこなしている。その製品群は線バネ、板バネ加工を中心に自動車、弱電メーカー等が最終ユーザーとなっている。
社長方針として一社依存率を低くし、多数の顧客から専門的な製品を受け入れる体制を確立している。藤野正芳社長は「部品製造である以上、安くて良いものを提供するしかない。それには社内での金型技術、設計技術の蓄積がすべてです」と語る。

そのバロメーターとして、不況期の昨年度もソディックの高精度ワイヤーカットAp500水油仕様、新型の45t リンクモーションプレスを導入した。また今年度もCAD/CAMシステムのネットワーク化、インターネットでの取り組みの準備を始めている。
「製造現場のニーズはますます多様化しています。けれど我々に求められてるのは専門化です。メーカーさんは我々、部品メーカーからよりコストパフォーマンスの良い部品を購入することを望んでいます。我々もそれに応えるべく専門化を推し進めるのが今後の部品メーカーのあり方です」藤野社長の思想は生産現場にも反映されている。

1. 金型設計/製作

これらモノづくりの生産現場で客先のニーズに積極的に対応しているのは麻生工場の藤野芳英工場長、藤野正次副工場長である。複雑な形状の順送金型、マルチフォーミング金型、自動機等の設計.製作を日夜こなしている。
藤野副工場長は、メーカーの短納期について次のように語る。
「とにかく今は納期対応が中心です。どれだけ早く金型を作れるか、それで量産が流れるかどうかが決まるわけですから、我々も常に臨戦体制です」
東邦発条の金型製作人員は8名である。そのうち設計人員は藤野氏を含めて3名。ワイヤーカット6台の機械設備にたいして新型、メンテナンスを含めての数字である。
「量産をやる以上、メンテナンス、保守が重要です。金型がうまく流れなければ、金が流れないわけですから。どうしても常に1.2名が保守にまわる状態になります。そして無理に新型をいれると亀裂が生じる。ほんとは工作機械の稼働率ももっとあがるのですがなかなか難しいのが本音です」と藤野副工場長。
マシニングセンターの導入が83年、ワイヤーカットはそれ以前、とNC工作機械の導入はいち早くすすめている。そして今後の金型製作の鍵を握るのがCAD/CAMであろう。

2. CAD/CAMシステム

小規模な工場こそコンピューターによる効率化が必要不可欠と考え、いち早く、東邦発条では10年前からCAD/CAMを導入した。当初はオリベッティのPLEXを購入した。現在では2次元CAD/CAMを2台、自動プロ1台を導入している。
CAD/CAMの選定にはCAMに強いという理由からオリベッティのSpeedyMILLを選んだ。オリベッティのCAD/CAMについて藤野副工場長は「CAD部分はシンプルすぎるくらい操作が簡単で覚えやすい。CAM部分は満足できる内容です」と話す。
システムの構成については「うちはDOS版とWindows版を併用してます。それぞれに長所、短所があり、いっせいにWindows版には切り替えられない。またWindows95に変えたいとしても、バージョンアップに費用が掛かるのでなかなか変えることができない。ソフトメーカーにはOSの変更とバージョンアップの関係を見直してもらわないと、バージョンアップのたびに他のCAD/CAMメーカーを合い見積せざるえない」と話す。
たしかにバージョンアップにかかるコストが100万円を超えると使用メーカーと他メーカーの比較をせざるをえないであろう。
CAD/CAMシステム構成について藤野副工場長は「設計と現場が離れているのでネットワークはまだ組んでいません。データはすべてフロッピーディスクで交換しています。一部のファナックのワイヤーカットは簡単な形状を切るために自動プロで出力します」
設計業務について「金型設計が主で、3名のオペレーターがCAD/CAMを操作しています。そのうち1名は現場のマシニングセンター、ワイヤーカットのNCデータ制作が主となっています。最近はメンテナンスをネットワーク利用で提供することを考案中です」と語る。

3. ネットワークの構築、インターネット利用

藤野社長はネットワークの可能性について次のように語る。
「インターネットは製造にとって非常に革新的なツールです。まず当社のインターネットの利用方法としては、今まで紙やFD(フロッピーディスク)等で行っていた図面やNCデータの交換をインターネットのメールを使って行う実験をはじめました。これによって打合わせや配達の時間を大幅に短縮できます。たとえば、本社に依頼された図面を麻生工場、三島工場に配信します。その回答もCADデータ同士で行うため寸法の見間違えがありません。そして必要とあればすぐにでも試作やワイヤーカットの加工データに展開できます。また生産管理、工程管理等もリアルタイムで集計し、今日の生産高を本社で集計できます。設計等に必要なカタログや仕様等をメーカーのホームページから引き出すこともできます。今後のネットワーク利用の展開としては当社の協力会社さんや当社の各工場をネットワークで結びより早い納期対応に備えていくつもりです」
社内で構築した金型製造技術をより早くネットワーク化に載せようというのも常にコンピューターを利用技術として考える藤野社長の視点があるからであろう。
ホームページについて「当社でもようやくホームページを立ち上げました。今後はインターネットを活用し客先や外注先の開拓を積極的に行っていきたいと思います。インターネットはうまく利用できれば情報を集めたり発信したりする社員が数人増えたのと同じくらい価値がある物だと考えているので、これからもいろいろな分野に応用していきたい」と語る。
設計からネットワークにコンピューターを活用している東邦発条株式会社の課題は加工ネットワークをどう構築していくかにある。

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