第21回 欠損金の繰越控除制度、繰戻還付制度-税務

中小企業では、決算ごとの損益の変動が大きいことが散見されます。税務において、過去の赤字(欠損金)に関して、企業側に有利な制度が整備されています。

1. 欠損金の繰越控除制度

(ア) 概要
事業年度に生じた欠損金について、翌年度以降7年間にわたり所得金額から繰越控除することができる制度です。
(イ) 対象者
青色申告書を提出する中小企業
(ウ) 措置の内容
事業年度に欠損が生じた場合、翌年度から7年間は所得金額からその欠損金を損金算入する形で順次繰り越して控除できる制度です。
(エ) 具体的事例
2010年3月期 所得△100百万円
2011年3月期 所得50百万円
2012年3月期 所得70百万円
<納税額の計算>
2010年3月期 
所得金額がマイナスであるため、納税額ゼロ
2011年3月期
△100百万円+50百万円=△50百万円
欠損金残額が所得金額を上回っているため、納税額ゼロ
2012年3月期
△50百万円+70百万円=20百万円
所得金額を20百万円として納税額を計算
(オ) 適用要件
① 欠損の生じた事業年度において青色申告書を提出
② その後連続して確定申告書を提出
(カ) 具体的な手続
確定申告書等に必要事項を記載し、税務署に申告して下さい。

2. 欠損金の繰戻還付制度

(ア) 概要
資本金1億円以下の中小企業は、欠損金の1年間の繰戻還付を受けることができる制度です。
(イ) 対象者
青色申告書を提出する資本金1億円以下の中小企業
(ウ) 措置の内容
事業年度に欠損が生じた場合、当事業年度の欠損金額を前事業年度の所得金額で除した値に、前事業年度の法人税額を乗じて得た金額の還付を受けることができます。。
(エ) 具体的事例
2010年3月期 所得100百万円 
2011年3月期 所得△70百万円
法人税率30%
<納税額の計算>
2010年3月期 
所得100百万円×法人税率30%=30百万円
2011年3月期
所得金額がマイナスのため、納税額はゼロ。
加えて、繰戻還付の請求を実施。
前期納税額30百万円×(当期欠損金額70百万円/前期所得金額100百万円)
=21百万円(繰戻還付金額)
(オ) 適用要件
① 還付の対象となる事業年度から欠損の生じた事業年度まで連続して青色申告書を提出
② 欠損の生じた事業年度において、期限内に確定申告書を提出すると同時に還付請求を実施
(カ) 具体的な手続
還付を受けようとする法人税の額、その計算の基礎その他の必要事項を記載した還付請求書を税務署に提出して下さい。

3. 問い合わせ先

国税庁、国税局または税務署の税務相談窓口
中小企業庁 財務課 電話:03-3501-5803

執筆者紹介
大井 宏明(おおいひろあき)

株式会社ルーキー
代表取締役社長

公認会計士。慶應義塾大学経済学部卒業。1999年から監査法人トーマツにてベンチャー企業の株式公開支援業務、法定監査業務、その他各種コンサルティング業務に従事。2005年末に監査法人トーマツ退社後、2006年初から上場準備企業の取締役CFOに就任し、上場準備業務の統括責任者となる。2008年株式会社ルーキーを設立、代表取締役社長に就任。経営戦略立案や社内体制整備等の各種コンサルティング業務を実施している。
株式会社ルーキーホームページ:http://rookie-japan.com

新規会員登録