第2回 (有)寿技研

( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」第36巻 第4号(1998年4月号))

執筆者 内原康雄

モノ作りの技術がコンピューター技術に代替される中、双方の技術の蓄積を着実にモノにしているメーカーが本稿の(有)寿技研である。
(有)寿技研は埼玉県八潮市の工業地帯にある。
主業務としてプレス加工、プレス金型製作をはじめ板金、切削、樹脂加工、組立、接着、
自動機設計製作等をこなしている。
これらモノづくりに関する客先のニーズに積極的に対応しているのは高山成一郎専務である。その業種製品群は幅広く、加工に於いてはミニ4駆のタイヤ、樹脂レンズの熱プレス成型、キッチン用断熱パネル、自動機の納入業種はスイミングゴーグル製造、建材加工、線香製造等、多岐にわたっている。
高山専務の営業方針は、
「こんな加工はどこに頼んでいいか分からない」
「こんな自動機が欲しいけど、どこに頼んだら作ってくれる?」
そんな注文に応えることだという。
お客さんの困っていることに対して、アイデアを企画提案し、それを自社で設計製作し加工まで請け負う。また一般金型、金属プレス加工も受注している。

1. CAD/CAM システム

小規模な工場こそコンピューターによる効率化が必要不可欠と考え町工場としてはいち早く、10年前からCAD/CAMを導入した。現在では2次元CAD/CAMを3台、3次元CAD/CAM11台を導入している。
CAD/CAM の選定にはCAMに強いという理由からオリベッティのSpeedyMILLを選んだ。オリベッティのCAD/CAMについて高山専務は「CAD部分は少しシンプルすぎる感もあるくらい非常に操作が簡単で覚えやすい。CAM部分は金型メーカーを多くユーザーに持つオリベッティらしくプレート加工等にかなり満足できる内容です。DOS版はトラブルも非常に少なく安定しています。不満をいえば市販のパソコンCADと比較すると価格が高い事くらいです」と話す。
システム構成は図1のとおりである。

システム構成は設計用LANと事務管理用LANに分かれている。
CAD/CAMシステム(設計用)はOSにDOSとWindows95を併用している。
システムの構成について高山専務は「Windows95に変えたいが、バージョンアップに費用が掛かるのでなかなか変えることができない。ソフトメーカーにはOSの変更とバージョンアップの関係を見直してもらわないと、バージョンアップのたびに他のCAD/CAMメーカーを視野に入れざるをえない」と話す。
たしかにバージョンアップにかかるコストが100万円を超えると使用メーカーと他メーカーの比較をせざるをえないであろう。
設計業務について「金型設計が主で、3名のオペレーターがCAD/CAMを操作しています。そのうち1名は現場のマシニングセンター、ワイヤーカットのNCデータ制作が主となっています。最近は自動機の設計が多く、メンテナンスをネットワーク利用で提供することを考案中です」と語る。

2. 事務管理システム

Windows95の普及は町工場でのLANを加速させている。その実例が(有)寿技研のLANである。
「管理システムと呼ぶには恥ずかしいレベルです」と高山専務。
しかし、筆者が見たところかなり使いこなしているといえるのではないだろうか?
図1のとおり4台のパソコンがLANで結ばれている。基本的には作業者別にパソコンが割り当てられている。ロータスの123(表計算ソフト)やロータスアプローチ(データベースソフト)を用いて見積、発注、在庫管理、技術データ管理等に自社にマッチした形のフォームを作成し使用している。
ロータス123について「マイクロソフトオフィスも使ってみたけど、使い慣れているので123は手放せません。アプローチも123との変換作業が使い易い」と高山専務。
これらは市販のソフトでも多数発売されているが、自社で作り上げると自由にフォームが作れる利点がある。現在はほとんどの業務にオリジナルのフォームを使用している。さらにそれぞれのパソコンをネットワークで結びお互いのデータを見たり交換したりして業務の効率化に役立てている(図2 在庫管理表)

3. ネットワークの構築、インターネット利用

高山専務はネットワークの可能性について次のように語る。
「インターネットは製造にとって非常に革新的なツールです。まず当社のインターネットの利用方法としては、今まで紙やFD(フロッピーディスク)等で行っていた図面やNCデータの交換をインターネットのメールを使って行っています。これによって打合わせや配達の時間を大幅に短縮しました。また設計等に必要なカタログや仕様等をメーカーのホームページから引き出しています。今後のネットワーク利用の展開としては客先に納入した自動機をネットワークで繋ぎ、自社から直接モニターしてメンテナンスすることも考えています」
社内で構築したネットワークが積極的に活用できるのも常にコンピューターを利用技術として考える高山専務の視点があるからであろう。
ホームページについて「当社でもようやくホームページを立ち上げました。今後はインターネットを活用し客先や外注先の開拓を積極的に行っていきたいと思います。インターネットはうまく利用できれば情報を集めたり発信したりする社員が数人増えたのと同じくらい価値がある物だと考えているので、これからもいろいろな分野に応用していきたい」と語る。
設計から加工までフルにコンピューターを活用している(有)寿技研の課題は加工ネットワークをどう構築していくかにある。

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