第17回 株式会社 フルイチ

(初出:日刊工業新聞社「プレス技術」 第38巻 第5号 (2000年5月号))

執筆者 内原康雄

古市民雄 社長

今回のデジタル・ファクトリー最前線は、埼玉県吉川市で高精度な金型づくりを展開する「(株)フルイチ」を訪れた。
古市社長  「フルイチ」は弱電、家電、自動車、OA、建築などの他業種にわたり、順送型を中心に製作している金型専業メーカーである。近年ではシャーシー、絞り、ファンヒーター、ラジエーター、紙ガイド、外装品などの 2m級の順送型が中心となっている。
いかに高精度の金型をつくるか、が最近の金型製作の課題であるが、「フルイチ」では世界最大級の浸漬タイプのワイヤーカットをはじめ、高精度の工作機械の導入には余念がない。また、CAD/CAMによる設計・製作などを柱に近年も設備投資に力を入れている。

製品(コンピュータ部品など、小物)

製品(自動車部品)

メタルアート(自社製品)

フルイチの金型製作

古市社長に金型製作について伺うと、「金型にはセンスが必要です。しかも、センスがあるだけではダメで、さらに10年くらいの時間をかけて、想像力が身に付かないとダメです。さらに最近では短納期化、低価格化が進み、技術面での対応だけでは、お客さんに接することができなくなりました。金型技術者といえど、技術があるだけではなく、折衝能力や判断能力を身に付けないとやっていけなくなりました。たとえば、お客様の注文に対して即、返答できるような応対能力も必要なのです」
非常に厳しい意見ではあるが、近年の金型メーカーの環境を考えると、現実なのであろう。
さらに古市社長は、「弊社の300tクラスの金型は、納期1ヶ月が当たり前です。最短では2週間なんていう、超短納期の金型もあります。それに応えるには、技術力だけでなく、お客さんとの交渉能力や判断能力が必要になってくるのです」
さらに金型の技術継承の問題について尋ねると、「大卒であるとか、高卒であるとかではなく、発想豊かな人材がこれからの日本には必要です。金型のことを理解していないで、農業と同じような衰退業種にとらえる方がよくいますが、日本の製造技術の根幹は『金型産業』です。金型の製造技術があるからこそ、日本はものづくりの国でいられるのです。近年の不況でそこを間違えているのには、非常に危機感を感じています。金型ができる国では、量産の製造コストが計算できるのです。原価コストの基盤である金型産業が日本に残らなければ、日本の製造業優位はありえないでしょう」と語る。
技術志向の工場は、一般的に営業には消極的であるが、「フルイチ」のホームページにもあるように積極的に展示会などにも参加している。

図1:社内LANシステム構成図

CAD/CAM室

NC工場

CAD/CAMシステム

「フルイチ」の金型製作の要であるCAD/CAMシステムは、Pri-CAD(セイコー電子工業)にアドオンのTASCAM(太陽メカトロニクス)を中心に構築されている。最近ではVisi-CADも導入し、3次元化への対応にも注力している。システム構成図は図1のとおりである。
これらのネットワーク化されたシステムを設計6名、CAM担当2名で対応している。また、現場の組立作業者も一通りCADの習得はできている。
「フルイチ」での金型における原価構成は、設計20、材料30、部品加工20、組立・トライ20であるという。この数字からも、「フルイチ」ではいかに設計および組立、トライにポイントを置いているかが理解できる。
しかし、CADについて古市社長は、「CADで設計するようになってから、もしかすると、発想能力が薄れてきているかもしれません」と警鐘を鳴らす。
「CADで書いたものは遍歴が残らず、すぐに消えてしまいますよね、そこがどうも、想像力をなくしているような気がします。私が言いたいのは、CADで描いていても、心の中で常に描いては消し、消しては描く、想像力を高めることを個人が自覚を持ってやらなければならない、ということでしょう」
社員の教育についても、「これまでは弊社でもTQC、カイゼンなどをやってきましたが、結果的に甘い土壌をつくっただけのようです。仕事というのは、自分で積極的に覚え、自分で金を払ってでも技術を習得しなければ、次世代には継承できないのです。これからは、そういった個人の資質としての高い能力を持った会社だけが生き残っていくでしょう」
当たり前のようなことであるが、製造業界では会社が研修費を出すのは当たり前であるが、たとえばコンピュータ業界や他業種では、資格を取るのに会社が研修費を負担するというのは、そういえば聞かない。古市社長の考えは、まさに製造業の甘えの構造を指摘したものであろう。

300トントライプレス

大型高速マシニングセンタ

NC放電加工機

Value21

古市社長の試みに「Value21」という金型企業集団がある(埼玉県異業種交流会)。Value21について古市社長は、「ここでは、会議や勉強会を通じて、グループ全体のレベルアップを図ろう、ということをやっています。インターネットにも早くから取り組み、96年からホームページを出しています。勉強会は2ヶ月に1回。見積、工程管理、生産管理など、共通で持てる認識を高めてきています。今後は、商品開発や案件ごとのプロジェクトチームをつくっていこう、というアイデアもでています。また、共同購買なども考えています」と語る。
Value21のホームページは、金型に対してなにか質問があれば、それに応えるような仕組みをつくっている。

ワイヤーカット機(α-1c)

CNC3次元測定器

CNC大型精密研削盤

まとめ

最後に、今後のインターネットの利用について古市社長に聞いてみた。
「インターネットは、本当に便利な道具です。われわれもこのツールを利用し、海外からの直接受注をすべく、Englishページも開設しました。日本のメーカーさんが不調なので、われわれも生き延びるためには、海外からの受注を直接、模索しないといけません。弊社のホームページでも、そういった仲間を募集しています。ぜひ、ご参照ください」
不況という言葉を背にして、常に積極的な古市社長の言葉には、真に説得力がある。今後の「フルイチ」の展開に注目したい。

会社概要
株式会社 フルイチ
代表者代表取締役社長 古市 民雄
創業昭和29年5月1日
所在地 本社
〒124-0006 東京都葛飾区堀切 2-66-12

工場
〒342-0043 埼玉県吉川市小松川 624
TEL(0489)81-3333 FAX(0489)82-8489

URL:http://furuichi-tec.co.jp
E-mail:tamio@furuichi-tec.co.jp
従業員 25名
事業内容プレス金型設計製作およびプレス加工、工作機械コンサルティング業および販売、組立ロボット設計製作、メタルアート(自社製品)製作販売、洗浄コンサルティング業および装置販売

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