第26回 高橋金型 株式会社

(初出:日刊工業新聞社「プレス技術」 第39巻 第7号 (2001年7月号) )

執筆者 内原康雄

プレスメーカーの仕事量が少なくなれば、
プレス金型メーカーの仕事も少なくなる。

高橋茂次社長

そもそもプレス金型専業の金型屋は、年々減っている。今回のデジタルファクトリーは、そんな中で特化した技術力を武器に国外に受注を広げている「高橋金型」を訪れた。
高橋金型について、社長の高橋茂次氏から金型産業創業期のお話から現状を聞いた。最近、製造業の隆盛を考えるにつき、創業者の話を中心に書いてみた。デジタルファクトリーのタイトルからは若干離れるが、結果的に現在の高橋金型の仕事ぶりは創業社長抜きには考えられないからだ。そこで、創業期の話を聞いたわけである。
高橋金型は、埼玉県三郷市にある。埼玉県南東部の三郷、八潮、草加は東京の墨田区、葛飾区、足立区で仕事を始めた工場が移転して、工業地帯を形成している。
高橋金型も足立区で創業した。高橋社長(63歳)は、葛飾のプレス工場で金型を学んだ後、27歳の時に独立した。創業の頃の様子を高橋社長は語ってくれた。
「なんとか東京で創業したいと思い、足立区で事業を始めました。創業した時の工場は23坪。2階が自宅で、1階が工場でした。セーパーやボール盤、グラインダー、コンタマシンが創業時の設備です。旋盤も買いたかったんですが、高くて買えませんでした。しょうがないので、旋盤は先輩から借りてスタートしました」
すると、ダイ面はセーパーで削った面だったんですか?
「いいえ、一応、面をきれいにペーパーサンダーで磨きました。見かけをよくするのと刃持ちをよくするためです」
そのころの高橋金型は、単発が中心だった。
「毎週休みがない時代でしたが、仕事は豊富にありました。わたしも月に2回の休み以外は、ほとんど休まず仕事をしていました。当時、金型屋さんは重宝されていましたから……。仕事は休めませんでした。職人の中には一型終わると休みを取ったり、トラブルと休む仲間もいましたねえ」
その頃のエピソードを語ってくれた。
「お客さんが来て、前金でお金を置いていってくれました。お客さんとしても早く金型が欲しいわけです。でも、納期はこちらの都合でしたね」
そんな経歴を経ての高橋社長の金型歴は45年であるという。そのようななか、昭和40年代後半から大量生産の時代を予感し、順送、トランスファーへの転換を図った。
社長自身、展示会には必ず行くそうだ。インターモールド、工作機械見本市などで工作機械の成長具合をみながら、ワイヤーカットを昭和55年に導入した。マシニングセンターは昭和62年。CAD/CAMは平成1年にEXCESS(コンピューター・エンジニアリング社)を導入、現在では自社で専用のLANを敷設し、社内の工作機械およびパソコンをネットワークで結んでいる。また、客先との取引きでインターネットは重要なツールとなってきているという。
自動車をはじめ、弱電、建築金物、文房具など、一業種に依存せず、客先を広げているという高橋金型であるが、IT化に関しても前述のCAD/CAMの利用だけでなく、客先との取引きにもメール、インターネットを大きく活用している。

工場内部

順送型

受注の3分の1は海外から

加工風景

現在、国外からの受注が売上の3割近くを占めているそうだ。フランス向け、マレーシア向け、シンガポール向けの金型を現地法人3社から受注している。ここでの受注には、イタリア、ドイツ、台湾の金型メーカーと相見積になることもある。また、輸出関係は売上の3割が英語での打ち合わせであるが、その打合わせはすべて電子メールを利用しているとのこと。
なぜ?国外から受注できるんですか?という質問に対して、高橋社長は以下のように答えてくれた。
「結局は細かいケアではないでしょうかねえ。電子メールの時代になっても、客先とのコミュニケーションが大切なわけです。たとえば、金型を納めた後にも変更した図面を正確な仕様書で提供するとか、メンテナンスに応えるとか、結局はお客さんを満足させることでしょうねえ」
既存の客先とメールを活用しながら安定受注を続ける「高橋金型」の次なる目標は、インターネットによる新規受注先の獲得である。これまでの受注先は主として3件である。インターネット受注の客先および客先の主なところは、
自動車部品セットメーカー:自動車部品金型3点、300万円
自動車部品金型メーカー:自動車の単発金型刻印、40万円
建築製品メーカー:建築金物4点、400万円
ということである。
しかし最近になって、問い合わせ件数は増加傾向にあるとのこと。1ヶ月に2~3件の新規客先候補からの問い合わせがあるそうだ。
「インターネットを見たという客先からの問い合わせは、確かに増えています。受注に結びつくまでの期間は長いですが、確実に増加しています。今後を期待したいですね」と、高橋社長は感想を述べる。
NCネットワークの利用についても熱く語っていただいた。
「社員にEMIDASだよ!全員集合!のビデオを見せたり、よく利用させてもらってます。NCネットワークは、製造業にとって素晴らしいツールですよ」とお褒めのことばをいただいた(筆者としても涙が出るほど嬉しいことである)。

若い世代に夢を与える

社員教育の方針は何ですか?と訊ねると、
「ともかく若い世代に夢を与えるのが今後の課題ですねえ」と高橋社長。
「確かに仕事は厳しいです。今、日本の製造業は東南アジアと競争しなければなりません。これは本当に厳しいことです。わたしが先日見た中国の工場では 4,000人の従業員がいて、工作機械が見渡す限り並んでいました。今の日本では考えられないことです。だからこそわれわれは東南アジアにはできない仕事を集めていくしかないですねえ」と東南アジアの脅威について語った。
最後に高橋社長の言葉で印象的だったのは、「わたしが若い人に話をすると小言になってしまいがちです。だから、若い人には経験を積んでもらうということで、金型のトライにはできる限り立ち会うようにしています」
若い人に話をするのではなく、実体験を一緒に経験しながら技術を次世代に後継していくという高橋社長の精神を垣間みたような気がした。
今後の高橋金型の展開に期待したい。

会社概要
高橋金型 株式会社
代表者取締役社長 高橋 茂次
創立1967(昭和42)年10月1日
資本金1,000万円
所在地〒341-0034 埼玉県三郷市新和4-585
TEL(0489)53-3816 FAX(0489)52-9540
従業員14名
営業品目プレス用トランスファー金型・順送金型の製造

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