株式会社ワールド山内

工場外観

札幌市の南に位置する、北広島市に拠点がある株式会社ワールド山内は「北海道から世界へ」を経営理念に掲げる板金工場である。強みは板金加工・形鋼加工・機械加工・溶接組立・焼付塗装の複合技術による社内一貫生産で、開発や3次元設計にも対応している。その技術力やノウハウ、独自開発のIoTテクノロジーを活用し、農業関連から鉄道、発電、高速道路まで、私たちの生活を支える社会インフラに同社製の製品が提供されている。また、工場の生産性の高さでは、日本随一の板金工場だ。そのワールド山内が、なぜ超高級ゴルフパターを製作し、しかもその価値が世界に認められるまでになったのか──きっかけは近年のコロナ禍のことであった。

フィッティング

パターの加工のようす

新型コロナウイルスの影響を受け、2020年初冬から緊急事態宣言によって、予定されていた営業訪問や講演行事が次々とキャンセルとなっていた。そんな中、湧き上がってきたのが「とことんこだわったものづくりをしてみよう」という気持ちだ。ゴルフハンディ3.2の腕前を持つ山内社長は、自身の趣味であるゴルフから道具の一つであるパターをお客様の贈呈用として作ることにした。「どうせ作るなら自社の技術力の限りを尽くし、これまで培ってきた自身の理論を最大限に活かしてみたい。手に取った人に「よくこんなものを作れたね⁉」と驚かれるような物を作りたかった」と山内氏は振り返る。奇しくもコロナ禍で製造にかける時間ができたことから、山内氏は理想のパター作りに熱を上げていく。
贈呈用とはいえ、実際にゴルフの試合で成果を出せるものにしなければ意味がない。そこで、懇意にしていた北海道のプロゴルファー向けに試作し使用してもらったところ、「このパター、良すぎるよ！売った方が良いよ！」と太鼓判を押してもらう。その後押しを受け、販売価格を設定することにした。とはいえ広く販売して儲けるつもりではなかった山内氏は、1本100万円以上という高級な価格設定とした。基本的には贈呈用であり、その人のためにその人に合ったパターを作ることが大事だと考えたからだ。
一般的に、メーカーはブランド力を活用して量産品の売り上げを上げようとする。しかし山内氏は「あくまで“本物”の価値で値を付けたかった。この値段設定は製品そのものの価値に対する適正価格です」と語る。キャッチコピーは『答えはボールが知っている。世界に一つ、自分だけのパター』に決めた。

小祝さくら選手と山内社長

パターグッズ

展示会出展のようす

北海道はゴルフ場も非常に多く、プロゴルファーも多い。山内氏は「地元出身のプロゴルファーを応援したい」との思いから、小祝さくら選手に最適なパターの製作に取り掛かった。もちろん頼まれたわけではない。山内氏みずから小祝選手の試合を観戦して研究し、小祝選手に合ったパターを考え、製作したものを、応援の気持ちをこめてフィッティングをお願いした。すると翌週の試合とその次の試合で、小祝選手は２週続けて優勝を勝ち取った。「パターのおかげです」。本人から直接お礼の連絡が来た。ワールド山内の技術力と理論が正しかったということが立証されたのだ。山内氏は驚きや謙遜よりも、確かな製品を作ったという大きな自信を得た。培ってきた技術を基盤に、ものづくりに対してこだわり抜いたことで最高傑作と胸を張れる製品を生み出したのだ。「World Craft Design」の初お披露目は2021年4月、二木ゴルフ美しが丘店の売り場で、1本100万円という価格が非常識から常識に変わった瞬間である。それからは評判が評判を呼び、15名以上のプロゴルファーが試合で使用するようになる。さらには一般のお客様にも多く愛用されている。すでに200本以上が製造され、販売された商品の主な価格帯は140～150万円とのことだ。
また、株式会社ワールド山内のこだわりの開発はパターだけにとどまらない。アウトドア用品も自社開発している。高級アウトドアブランド「AMBITIOUS WORLD」として1台10万円以上の鉄板焼き台など、販売先として百貨店と組むほか、外商からのオファーもある。他にもアパレル、自転車などの様々な分野にて、ワールド山内グループとしての高級路線ブランドでB to Cをどんどん推し進めていく予定だ。それもこれも“こだわりのものづくり”だからこその適正価格である。これらは地元北広島市のふるさと納税返礼品に登録予定である。
さらに航空産業への参入を計画し、サプライチェーン補助金を活用して、新工場の建設、最新鋭の加工機械を含め14億円ほどの投資を行い、新工場は7月に完成予定である。つねに“本物”を目指すワールド山内の更なる躍進から目が離せない。