成長企業の経営戦略

株式会社マルマエ 代表取締役社長 前田 俊一氏

株式会社マルマエ 代表取締役社長 前田 俊一氏

V 字復活

2006年12月に東証マザーズ上場を果たした株式会社マルマエは、太陽電池分野に参入すべく設備投資のため30億円の借り入れを受けた。ところがリーマンショックの煽りを受け、窮地に立たされる。予定していた受注がなくなってしまったのだ。
同社代表取締役社長・前田俊一氏は事業再生ADR手続きを行い、再起を期す。事業再生ADRは、過大な債務を負った事業者が法的整理手続きによらず債権者の協力を得ながら事業再生を図るのを円滑化する制度だ。
前田氏は徹底した市場リサーチを行い、半導体分野への進出に切り替える。太陽電池は海外に逃げていったが、半導体は国内に市場が残ることをつかんだからだ。半導体については設備が小さいので、多額の投資がいらないことも選択理由だった。「技術力を高めれば、再生できると考えたんです」
上場以来、投資家向けのIRに追われていた前田氏は、「モノづくりですから、現場に出なければ」と考え、自ら技術力の立て直しを行った。
半導体関連の客先はなく新規営業に奔走したが、仕事になるまで2~3年かかった。それでも、前田氏には勝算があった。同社が得意としていた液晶製造装置と半導体製造装置は技術的に重なる部分があったからだ。それが、中枢部品である真空パーツだ。
同社は見事に事業改善を果たす。そして2015年、事業再生計画を1年半前倒ししてリファイナンスにより銀行取引の正常化に成功。同社の再成長の始まりだった。

優位に立つための2つの付加価値

半導体関連は市場自体も伸びてはいたが、それに加えて後発であった同社は、シェアを奪いながら拡大を続けた。「他社との競合は熾烈です。技術力、納期、品質――それらは、あって当たり前なのです。いかに付加価値を与えられるか?
当社には次の2つがあります」
その1つは、生産性の高さだ。
株式会社マルマエは1965年、主にタンク製造及び配管等の溶接事業を行う前田鉄工所として創業した。一方、レーサーであった若き日の前田氏は、バイクのカスタマイズの資金集めのため、現在のマルマエの事業となる、バイク部品の注文製造会社T’s M’sR&Dを立ち上げ、昼間は家業の鉄工所で働き、夜間はこの事業に当てる二足のわらじを履いていた。マフラーや足載せ用のバックステップなど、前田氏がつくるバイク部品は評判を呼び、注文は引きも切らなかった。前田氏がレースから退いて以降も、苦しい台所事情の家業に対して、T’sM’sR&Dは好調だった。その後、精密加工部品を製造する切削加工事業へと転換。発電所用蒸気タービンや医療装置、産業用ロボットの部品製造へと業務を拡大し、1997年に株式会社マルマエと事業を統合し、加工技術を蓄積してきた。その生産性は、半導体分野にも生きている。生産性を高めるとはなにか?
それは、短い時間でモノがつくれるということである。すなわち、低いコストによるモノづくりの実現だった。
2つ目は、東証プライム上場企業であることだ。上場企業であるがゆえに、いざという時に資金調達が容易なのだっ た。

コロナ禍における同社

半導体事業により再成長を続ける同社にとって、コロナ禍はどう影響したのだろう?
感染拡大が始まったのは2020年。その前年に、売上がやや減少している。「これは、市場に半導体がだぶついていたのが原因です」
そして翌年からは、売上は再び増加に転じている。「コロナが始まる以前から5Gが叫ばれていました。コンピューターのハードディスクも、半導体を使ったメモリに置き換わっていたところです。そこにリモートや巣ごもりで、半導体需要が加速したわけです」
コロナが与える影響は、同社においてはほとんどなかった。むしろ、この半導体不足には困ったという。「半導体製造装置にも、自動車やスマホと同様に半導体が使われていますが、それが足りないわけです」
半導体をつくり出す装置の半導体が足りないというのは、笑えない現実である。「最悪期は脱していますが」と前田氏は苦笑した。
さて、同社の今後の展望である。「中長期の事業計画においては、3ヵ年程度は今の事業戦略を継続していけばいいと考えます。また、成長をお金で買うという意味で、M&Aも進めていきたいです。それから、宇宙分野にも進出していきたいですね。民間事業の人工衛星には興味があります」
そして、もうひとつ。今のマルマエは、前田氏が手塩にかけたT’s M’sR&Dが起点だ。リサーチ=研究の「R」と、ディベロップメント=開発の「D」を起点とし、さまざまなモノづくりを行ってきたこの事業を、「社会的に立派な会社として、独り立ちさせたいんです」と先を見つめた。そう、R&Dこそが、今の半導体事業に自らを導いたのだから。

株式会社マルマエ


取材・文:上野 歩 / 撮影:間野 真由美


株式会社マルマエ

所在地

〒899-0216 鹿児島県出水市大野原町2141 番地

TEL

0996-68-1150

URL

https://www.marumae.com/

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