成長企業の経営戦略

株式会社長谷川機械製作所 代表取締役社長 長谷川 透 氏

株式会社長谷川機械製作所 代表取締役社長 長谷川 透 氏

部品は100%内製

2022年の夏は、福島県の白河という地名に注目が集まった。全国高校野球選手権大会の優勝旗が初めて白河の関を越えたからである。白河は、『おくのほそ道』ゆかりの地でもある。松尾芭蕉を俳諧のイノベーターとして敬愛の念を抱く長谷川透氏は、「短歌ではなく俳句――何事もシンプルにスマートに」と社員に呼び掛けている。
株式会社長谷川機械製作所が白河工場を新設してから約50年が経つ。父・晃のぼる氏がリクルートのため目立つようにと、波型の青い屋根と白い壁で内陸の地に海を出現させた1号棟のまわりを取り囲むように工程ごとに工場が分散している。
「ばらばらに分かれていてカッコ悪いんですけど、来社いただいた皆さんには『こうやってつくっているんだというのがよく分かる』と言っていただけます」。そしてなによりスピンドルなど心臓部も含め、すべての部品を内製していることに驚かされる。「内製することで求める精度と品質を備えた部品が得られます。デリバリー面でも、必要な部品が必要な時に手に入ります。なにより一番大きいのは技術的なノウハウを蓄積できることです」。

部品が小さくなれば機械も小さく

1995年、長谷川氏は同社の代表取締役社長に就任した。バブル崩壊後で、経営状態はきわめて厳しかった。受注がない中、生産拠点を手狭になった大宮から白河に移して再起を期す。
長谷川氏は「うちの強みとはなにか?」を突き詰めた。そこで思い至る。創業者である祖父・渉氏は、小型の4尺旋盤に集中した。だからこそ、大型機械を目指す企業が多い中で自社のカラーを打ち出せたのだ。「うちには、小型機械なら他の追随を許さないノウハウがある!」。
長谷川氏は『大は小を兼ねない』をスローガンに、小型機械に特化する。そうして2000年に生み出されたのが、超小型旋盤P15だった。それまでは小型を謳っても、横幅が1.5メートルほどあった。それが1/3の55㎝まで間口を狭めている。しかも加工精度0.1㎛を実現した。
「売れる数は少なくても、必要とされる顧客に使ってもらえればそれでいい」。そう考えて世に送り出したP15は大ヒット。工場面積が小さいユーザーを想定していたが、それまで納入実績がなかった自動車工場に多く採用された。
加工する部品が小さくなれば、稼働効率やエネルギー消費からいっても小さい機械のほうがメリットは大きい。折しもハイブリッド化が進み、小型で精密な部品加工需要が増えた自動車分野の比率が上がっていった。

コロナ禍における同社

さらに間口を狭めた旋盤やマシニングセンターなど、超小型シリーズのラインアップを充実させつつ2000年からの10年間を歩んだ。
汎用品をつくる中国工場を新設したいと考えていた長谷川だったが、「潤沢な資金もないのに、失敗したらどうしよう」と躊躇していた。それを決意させたのは、2011年の東日本大震災だった。生産拠点が日本だけというのは危険に感じたからだ。
中国浙江省に台湾の会社と合弁会社をつくったがうまくいかなかった。100%独資の子会社として再立ち上げすると軌道に乗った。
「コロナ禍の昨年は、本体よりも調子がよかったくらいですよ」。
さて、そのコロナ禍である。今は少しずつ上向いているが、受注が落ちた間に行ったのは、機械の入れ替えなどの投資である。そして新技術の開発。特許を3つ取得し、ホームページを刷新した。「それと、生意気を言うようですが、社員教育を行いました」。
小さい会社でも、大きい会社に負けない存在価値を持つにはどうしたらよいかを常に考えている。「そのために、スマート、システム、ソリューションをお客さまに提供できるSプロジェクトを打ち出しました」。
これは社員に向けてのSでもある。スマート=見える化の共有。システム=ミスをした者を責めるのではなく、仕組みづくりをする。ソリューション=ボトルネックを叩いて標準化する。社員が満足にこれらを実行できた時、顧客も満足できる。
2008年、長谷川はJR神田駅で電車に引きずられていくベビーカーから赤ん坊を救出。自身も引きずられ、けがを負った。これはニュースに何度も取り上げられ、時の人となった。人命救助の紅綬褒章も授与された。
「“私心がなく澄んだ心がモノづくりにつながっている”などと記事にも取り上げられたが、まったく関係ない」と本人は言う。あれは、身体が勝手に動いたことだと。
「お客さまと社員が満足すること――それが、モノづくりのモチベーションです」。

株式会社長谷川機械製作所


取材・文:上野 歩 / 撮影:阿部 隆


株式会社長谷川機械製作所

所在地

〒337-0053 埼玉県さいたま市見沼区大和田町1-602

TEL

0248-25-2226(白河工場)

FAX

0248-25-2227(白河工場)

URL

http://www.hasegawa-m.co.jp/

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