第15話 ものづくりは愛だ(3)

「小川、いい加減にしろ」

小川と内原の言い争いに渡辺が止めに入った。

「いいんだよ、渡辺君。スーパーエンジニア構想の成功の立役者へのご褒美だ。小川君、何が言いたいのかね。なんでも答えてやる」

「ミスエヌシーでもある受付の真由美さんのことですよ」

「受付の真由美って、小林真由美君のことかね。彼女がどうかしたのか」

「内原社長の愛人だって聞きました」

「何バカなことを言っているんだ。小川。今日はもういいから帰れ」

「いいんだよ、渡辺君。この際だから教えてあげよう。渡辺君も今まで苦々しく思っていたのだろうから聞いてくれ」

そう言って傍らの丸イスに腰掛けると内原は朴訥と語り始めた。

「小川君の言うとおりだよ。確かにオレは真由美とそういう関係にある」

半信半疑だった事実を突きつけられて、小川は頭の奥が沸騰しそうになった。内原は小川の動揺を感じ取りながらも無視して話を続けた。

「彼女はな、病気なんだ」

「病気って何の病気ですか?」

「黙って最後まで聞け」

小川をひと睨みすると内原は語り続けた。

「真由美は、この資本主義経済という化け物に飲み込まれたんだ。なまじ美貌が備わっていたがために、甘い誘惑も多かったのだろう。私がそんな彼女を見かけたのは、経団連の会合の二次会で行った銀座の店だった。自分の会社のミスエヌシーでもあり、ある面、会社の顔だからな、いくら化粧で装っていても一目で気がついたさ。一緒に行った経団連の連中が気づかないとも限らないので、ママに頼んで早退させ、翌日会社で話を聞いた。すると彼女は、自分の美貌で自分の欲しいものを手に入れて何が悪いのかとうそぶいた。悪いのは彼女の美貌や身体欲しさに群がってくる男たちだとも言っていた。人間の幸せは物欲では満たされないと話したが、全然通じないし、銀座の店を辞めて欲しいならば、私を愛人にしてくれ、そうすれば店を辞めても良いというので、エヌシーでの仕事を続けることを条件に彼女を愛人にしたのさ」

「やっぱり愛人だったんだ」

「まあ、聞け。昔、オレがエヌシー自動車を立ち上げて、やっと軌道に乗ってきて天狗になっていた時期があってな。あの頃は、夜な夜な銀座や六本木を飲み歩いていたんだが、その頃に知り合った人の中に秋山さんていう人がいてな。この人が悔しいほどよく女にもてる人でなあ。今頃何しているかなあ。その秋山さんがな、ある日教えてくれたんだよ。女と遊ぶのもいい。金を使うのもいい。でもな、相手の人生の責任を持てと言われたんだ」

EMIDAS magazine Vol.20 2009 掲載

※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません

 

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