「よくわからないんですけど」
「いいか、例えば、キミが真由美と愛人契約をしたとする」
「オレにはそんな金ないっすけど」
「例えばと言っただろう。キミが仮に真由美以外に好きな女ができてしまったとする」
「オレには真由美さん以外の女なんて考えられません」
「例えばと言っただろう。バカなのかキミは? 渡辺君、よく彼の相手ができたな?」
「まあ、工藤専務の人選ですから」
「工藤も何を考えているのかわからんところがあるからな。まあ、モルモットと考えれば適任なのかもしれん。小川にできることなら誰でもできるということか。そこで小川君、今度、訳のわからん合いの手を入れたら二度と話をしてやらんからそのつもりで聞け。いいか、君が真由美と愛人契約を結んでいて、他に好きな女ができたとする。いいな、例え話だからな。真由美には今まで充分に手当てを払ってきた。これからは新しくて、もっと若くて好い女が待っている。そこでだ、君は真由美をどうするかね?」
「今まで充分な手当てを払ってきたんですよね。だったら、もういいんじゃないんですか。次の女にのりかえますよ」
「そうか。真由美を捨てるのか」
「だって、真由美さんも金のために愛人になっていたんですよね。仕方ないじゃないですか。お互い納得のいく結論だと思いますよ」
「そうだな。じゃあ、捨てられた真由美はどうする? 次の日から何をして生計を立てるんだ?」
「そんなの知らないですよ。また夜の商売に戻るなり、新しい男を見つけるなり、彼女の好きにすればいいじゃないですか」
「でも君は彼女の人生のもっとも美しい時間を拘束してしまったのかもしれんのだぞ。手放すなら、美しいうちにと思わないのか?」
「そんなことを言われても」
「商品価値が無くなったから処分するのか」
「そう、それです。商品価値が無くなったから捨てられるのは仕方ないです」
「真由美は、いや、女は男の商品なのか?」
「そういうわけじゃ……」
「そうだ。女は男の商品じゃない。だから自分のエゴや都合で振り回しちゃいけない。もし仮に金を積んで自分の女にしたいのならば、一生涯面倒をみなきゃいかん。そのつもりで口説かなくちゃいかん。秋山さんはオレにそのことを教えてくれたんだ。女からすれば、それも男のエゴだとも言っていた。でも女も男のそんなエゴに惚れるんだとも教えてくれた」
EMIDAS magazine Vol.21 2009 掲載
※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません