第22話 ものづくりは最高だ(1)

「ジョニー、おい、ジョニー、返事しろよ。おい、まだ死んじまったわけじゃねえだろ」

「なんだ、うるせえな。……誰かと思ったらシンジかよ。俺はな、もうすぐスクラップとしてお払い箱にされるんだよ、もうすでに死んだも同然のただの鉄の塊なんだよ。ほっといとくれ」

「そうじゃねえんだよ、確かにスーパースポーツカープロジェクトは一度は中止になったけど、スーパーEVプロジェクトとして甦ったんだよ。オレたちはまだお払い箱じゃない。世界最速のスーパーEVとして華々しくデビューするんだよ」

・・・・・・・・・・・・・

「本当か、それ」

「本当だよ、さっき、渡辺さんからおまえのリトライを正式に指示されたから間違いない。」

「スーパーEV。世界最速。・・・俺、本当にデビューできるのか。もう鎔かされちゃう心配も、東京湾に沈められる心配も、異国に売り払われる心配もないんだな。このエヌシー自動車で金型として働けるんだな」

「異国に売り払われるって、なんだそれ、どうすりゃそんな発想になるんだよ」

「だって、お前。スーパースポーツカープロジェクトが中止になって、こんな遊休機械置き場の隅に置かれて、シンジだって全然会いに来ないし、来る奴といえば、あの嫌味な中田がサボりにきては、シンジなんかに任せるからこんなことになった。おまえみたいな役立たずの金型は、溶解炉で鎔かして再利用するか、あきらめて東京湾に捨てるか、または遠い異国に売り払う以外に使い道がないっていうもんだから」

小川は、今日までプロジェクトが中止になって自分ばっかり悲劇の主人公みたいに思っていたけど辛かったのは自分だけじゃない。ジョニーも辛かったんだ。いや、プロジェクトに関わっていた多くの技術者や多くの部材たちが悲しみを胸にしまいこんで耐えていたことを今更ながらに気付いた。そして、これまでの自分勝手さや器量の狭さに恥を感じていた。

「悪かったな、ジョニー。オレ、全然周りのことを気にする余裕もなくて、自分のことばっかりで、おまえのことすっかり忘れていた。でもこれからは前に向かって頑張ろうぜ」

「忘れていた?」

「ああ、ごめん」

「すっかり?」

「ああ、だから、おまえがどこに置かれているのか探すの大変だったんだぜ」

「だから、全然来なかったのか?」

「ああ、そのとおりだ、ごめん」

「ふざけんなよ、シンジ。なんだよ、それ。お前、何様だと思ってるんだ? エヌシー自動車初のスーパーエンジニア様か? ああっ? 設計から製作、仕上げまですべてできちゃう金型のエキスパートか? フン、そうだな、そうだよ。お前はすげえよ。全部自分でできちゃうんだよな、でも、忘れんなよ。俺がいてのお前だからな」

EMIDAS magazine Vol.28 2012 掲載

※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません

 

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