庭で盆栽の手入れをしていたらしい誠一が伏見に気がついて、
「や、やあ……ど、どうも」
懐かしそうに微笑んだ。
吾嬬信用金庫の専務理事は、かつての花丘製作所の社長のもとに歩みよって、
「ごぶさたしております。いかがですか?」
と、やはり親愛に満ちた笑みを浮かべた。
「ま、ま、ま、まあまあ、ぼ……ぼちぼちで、です」
実家に伏見を案内した明希子は、そうしたやり取りを眺めながら、彼らのあいだにたしかな信頼関係が築かれているのを感じた。
師走の暖かい日で、3人は開け放った縁側
に腰を下ろした。
ちいさな町工場と家内工業を営む家々がごみごみと建て込んだ吾嬬町界隈には庭のある家はめずらしい。花丘家の庭も、ほんとうに狭いものだ。
大きな柿の木があるのが目立つ。この木は毎年たくさんの実をつける。とても甘くておいしい柿で、ことしの秋も工場のひとびとや近所に配ってよろこばれた。いまは、庭に飛来する野鳥が食べるぶんをいくつか枝に残してあった。
「も、も、もっと、は、早く、ふ、伏見さん、と、とこを訪ねさせても、よ、よかったんだけどどどども、ね」
「ええ」
と伏見がうなずいた。
「で、で、でも、それじゃあ、こ、これの」
と明希子を示して、
「た、ためにならんで、しょう」
ふたたび伏見がうなずいて、
「愛の鞭ですか?」
と言う。
誠一はちょっとだけ照れたような表情を見せてから、
「い、いや、そんなんじゃね、ねえけど」
そっけなく言った。
みんなでしばらく無言のまま庭を眺めていた。
柿とツゲの木、その向こうは隣の家のブロック塀である。地面にはうように自生するカタバミが、ほのぼのと冬の陽を受けている。カタバミをやっかいな雑草のように言う向きもあるが、いちど根付くと絶えないという験担ぎから誠一はむしろ歓迎していた。
「伏見さん、お久しぶり」
静江が茶菓を運んできた。
「やあ、これはどうも。静江さんは、もう会社の経理からは――」
「ええ、昌代さんにすっかりまかせきり」
「そうですか」
伏見が茶をすすり、また庭を見やってから誠一に向き直った。