第12話 敗北

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藤見が事務所の壁に大きな模造紙を張り出した。

朝礼で全従業員が集まっている。

模造紙にはマジックで表が書き込まれていた。左側のワクには〔設計・部品購入〕〔部品製作〕〔型組〕〔トライ〕という工程がある。さらに〔部品設計〕は〔MC〕〔Wir・放電〕〔部品加工〕〔仕上げ〕とワクが分かれていて、そのあとのワクに、それぞれの担当者の名前が記されていた。

〔MC〕〔菊本〕

〔Wir・放電〕〔関〕

〔部品購入〕〔土門〕

〔仕上げ部品加工〕〔仙田〕

「あ、オレの名前がある!」

若手の関がすっとんきょうな声を上げた。

「そうだ」

と藤見がその声に応じた。

「ムラタ工機さんから依頼があったパネル80514のベースプレートのワイヤーと放電の担当者は関君ということだ」

「で、マシニングの担当がオレね」

と菊本。

「そういうことだ」

すると関が、

「なんか、こうやって名前が張り出されると、責任感じちゃいますよね、菊さん」

気弱げに言った。

「ンなこたあねえよ」

菊本が言った。

「こんな表があろうがなかろうが、責任の重さはかわんねー。オレはよ、自分の仕事に命張ってんだ。こうやって、名前が掲げられりゃあ晴れがましいくらいよ。身が引き締まるってもんだ」

「カッコイイですね、菊さん」

「そうだ、表に担当者の名前があろうがなかろうが仕事の責任の重さがかわるわけではない」

藤見が言った。

「この表は、受注した製品について、誰がどういうかたちでかかわり、その製品がいまどのような工程にあるのかをつまびらかにするものだ」

藤見が担当者の欄の後ろに長く伸びたワクを指さした。そこには、それぞれ〔計画〕と〔実績〕とあって日付が区切ってある。

「進捗にしたがって、実績のワクに青い付箋紙を貼っていく。計画日のワクの黄色い付箋と見比べれば、順調か、遅れているのかがわかる」

藤見が、表のいちばん上部を示した。そこには赤字で仕様に関する特記事項が記されていた。

「この工程表で確認すれば、仕様に関する行き違いを防ぐこともできる」

藤見が従業員のほうに向きなおった。

「単純だが、情報共有にはこうした表にするのが誰の眼にも一目瞭然だ」

すると、

「なるほど」

「考えてみりゃ、いままで、こういうのって、なかったもんな」

「こらあいいや」

そんな声があちこちで聞こえた。

藤見がつづけた。

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