第3話 決意

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病院の廊下の向こうから静江が歩いてくるのが見えた。

「あら、アッコちゃん、いま工場長が来てくれてるのよ」

「そう。ちょうどいいわ」

ほんとうだった。もし、花丘製作所が危機的状況にあるのなら、なにより社長である誠一から直接話を聞くべきだったのだ。それを自分は避けていた。誠一の病気のこともあったかもしれない。しかし、なにより、誠一と話し合うことで、自分が渦中に巻き込まれたくなかったのだ。

「お父さんのリハビリのことで、あたし、松尾先生のところに行ってくるから」

静江が言った。

――そう。それもちょうどいいわ。

静江が横から口を挟んでくると話がややこしくなりそうだった。

病室で、誠一はベッドに半身を起こしていた。傍らの椅子に菅沼が腰を下ろしている。

「こんにちは」

明希子が入ってゆくと、菅沼が立ち上がった。

「こりゃあ、アッコさん。先日は失礼しました」

そうして、座っていた椅子を明希子にすすめる。

「いいの、座っていて、工場長」

明希子は誠一に顔を向けた。

「お父さん、具合はどう?」

「あ……うん……あ、相変わらずだ」

「焦らないで。ゆっくりリハビリして」

「そ、そう言ったって……のんびり、びりびりしてられるかよ。お……お、お……」

「“おれがいないと、工場はどうなる”でしょう?」

「あ……う、うん」

誠一がうなずいた。

「その工場だけど、いったいどうなっているの?」

「ど……ど、どどどど……どうって?」

「新しい機械を導入したのに、思うように仕事が入ってきていないんじゃないの?」

誠一が押し黙った。

菅沼も黙っていた。

「出入りの業者さんへの支払いにも困っているみたいじゃない」

「アッコさん、それを誰から!?」

慌てたように言う菅沼に向かって明希子は、

「そうなんでしょう? ねえ、工場長」

静かに言った。

菅沼がうなだれた。

明希子は待った。

しばらくの沈黙の後に誠一が口を開いた。

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