【知らないと損する ベトナムビジネスの基礎知識】 第1回
企業の法的代表者について

執筆者:斉藤雄久氏(AIC Vietnam Co.,LTD.代表)



今回は、企業の法的代表者の定義・義務・不在とする場合のリスクなどに関して解説していきます。


1 法的代表者の定義
現行の企業法における法的代表者の定義や義務は、以下の通りです。

(1)有限会社、株式会社においては、1名または複数の法的代表者を任命することが可能。企業の定款において、その具体的な人数・職位・権利・義務を規定する(同法第13条2項)。

(2)企業は少なくとも1名の法的代表者を常駐させる必要がある。法的代表者の数が1名のみであれば、その者がベトナムに常駐する(同法第13条3項)。

(3)法的代表者が1名の企業では、その代表者が30日以上ベトナムを不在にし、他の者に委任しない場合、出資者・社員総会・取締役会は他の者を法的代表者に就かせる必要がある(同法第13条3項)。

(4)法的代表者が1名の企業では、その代表者が30日以上ベトナムを不在にし、他の者に委任しない場合、出資者・社員総会・取締役会は他の者を法的代表者に就かせる必要がある(同法第13条5項)。


2 常駐の定義
常駐の定義に関して、企業法やその細則にも規定がありません。ですので一般的には、個人所得税法上の居住者の定義(ベトナムに年間183日以上滞在)に基づいて考えられています。


3 不在時の委任の手続き
法的代表者が不在となる場合、その権限を他者に委任する必要がありますが(企業法第13条3項)、その注意事項は以下の通りです。

(1)委任状の書式に関する規定はなく、税務署に提出する場合以外は、企業が作成した書式で問題ない。税務署に提出する文書では、委任する期間、範囲を具体的に委任状に記載する必要がある(財務省の通達No.156/2013/TTーBTC第6条)。

(2)行政機関への提出書類については、法的代表者以外の者が署名した場合、委任状の添付が要求されるので、委任状の言語はベトナム語とすべき。

(3)ビザの申請手続きについては、出入国管理局に法的代表者の署名が登録されており、委任状に基づく申請は困難である。


4 不在となる場合の罰則
法的代表者が常駐しない、不在の際に他者に委任しない場合、現地法人には1,000万から1,500万VNDの罰金が科せられます(政令No.50/2016/ND-CP第33条)。


5 注意事項
現時点では、法的代表者の不在を理由として、処罰がなされた事例はまだ少ないようです。ただし、今後は当局が法令遵守を厳しく要求する恐れもあります。また、下記のような個人所得税上のリスクも考えられます。

(1)ベトナム非居住者への課税は、通常は滞在日数分の所得を申告・納付する。また、申請すれば個人所得税の免税対象となる可能性もある。

(2)ただし、ベトナム法人の法的代表者など役員である場合、2016年の税務総局の公文書No.4395/TCT-HTQTに基づき、個人所得税の免税申請の適用対象外である。

(3)給与や諸手当等に関するベトナムにおける個人所得税の対象は、「ベトナムを源泉とする所得」である。仮に税務当局が、非居住者であっても経営の最高責任者であるので、法的代表者が無報酬という事は考え難く、国外で得ている報酬にベトナム法人からの所得が含まれていると指摘した場合、反論が非常に困難である。

6 まとめ(今回の注意事項)
(1)法的代表者を1名とする場合、居住者とすべき。

(2)国外居住者を法的代表者としたい場合、代表者を複数として、そのうちの1名は居住者とすべき。

(3)投資企業の法的代表者の場合、投資登録証明書に使命が記載され、当局の目に留まりやすい。そのため、法的代表者(特に代表者1名の場合)となる事は、個人所得税のリスクもあるので避けるべき。



執筆者プロフィール
斉藤雄久(さいとう・たかひさ)
東京都葛飾区出身、早稲田大学社会科学部卒。1994年12月のハノイ大学への留学以降、ベトナム在住は25年以上となる。現在AIC Vietnam Co.,LTD.のPresident。当地での豊富なビジネス経験に基づく独自の観点から、法規にも基づく実務的なアドバイス業務を実践するほか、国内外での講演も多数。


AIC Vietnam Co.,LTD.の公式サイトは、こちら

出典:『月刊エミダス ベトナム版』掲載号は、こちら
 







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