kataya

小説『削り屋』出版記念座談会 — 中 —

語り手(登場順)

上野 歩 氏
作家。小説すばる新人賞受賞にてデビュー。(公式ホームページ《上野亭かきあげ丼》
茂原 純一 氏
株式会社モハラテクニカ代表取締役社長。群馬県高崎市で精密板金加工をおこなう。小説冒頭のケンカシーンなどに取材協力。(会社情報はこちら
藤原 多喜夫 氏
株式会社ヒューテック代表取締役社長。大阪市の精密金属部品加工をおこなう「削り屋」。小説の核となる、削りにおいて取材協力。(会社情報はこちら
後藤 敏公 氏
株式会社みづほ合成工業所代表取締役社長。名古屋で樹脂成形をおこなう。小説のWEB連載時、掲載写真のすべてを撮影。(会社情報はこちら
樽川 久夫 氏
アルファ電子株式会社代表取締役社長。福島県で医療機器、電子機器の組立なををおこなう。主人公に多大な影響を与える会社社長・毛利樽夫のモデル。(会社情報はこちら

ライバルはベトナム人!?

上野
物語の後半、主人公の拳磨は「技能五輪全国大会」を目指します。そこで闘うライバルを外国人にしたいなって思っていました。後藤さんに相談したら「ベトナム人がいいんじゃないか」とアドバイスをいただいて、ディエップというベトナム人のキャラクターが誕生しました。
後藤
社内にベトナムのスタッフがいるんですが、日本人の感覚にとても近いんですよ。だから、ライバルにいいんじゃないかなと思いました。今まで、台湾、中国、ベトナムなどいろいろな国の方と仕事をしましたが、ベトナムが一番似ていますね。
茂原
それはよく言われますよね。
後藤
手先も器用だし、地道に仕事に取り組む姿勢が強いですね。
上野
技能五輪に出場するためにはいろんな条件があるんです。その条件にもっとも近いのがベトナム人でもありました。

「削り屋」の前……「金型物語」

後藤
僕は「削り屋」の前に上野さんが書かれていた「KATAYA~金型物語~※」という小説で、かなり協力させていただきました。
上野
あれは時代設定が古くて、小説化ができなかった。リーマンショックの時の話ですから。
後藤
前回が金型の話で、今度は削り屋。上野さんはいったいどんな物語を書くんだろうとワクワクしていましたよ。構想を聞いてみると、「KATAYA~金型物語~」の主人公・亜希子は女性で華やかな経営者の話なのに対して、「削り屋」は剣豪のような渋いテイストで、主人公の拳磨は経営者ではなくプレイヤー。
上野
後藤さんには、毎月、WEB連載用の写真を撮っていただいて。
後藤
物語の冒頭で、拳磨が歯医者を目指すのをやめて、製造業の世界に入るんです。僕もリハビリの先生になろうと思っていたのをやめて製造業に飛び込んだから、かなり感情移入して写真を撮りましたよ。歯科大学でのシーンや公園でひとりポツンとしているシーンなんて、写真のイメージがバンバン湧きました。楽しかったですね。

キャラクターのモデル

上野
拳磨は、皮ジャンを着たりケンカをしたり女の子を助けたりと、僕のなかにはないキャラクターなんです。といっても、拳磨の持っている皮ジャンやオートバイは自分で買いそろえたものではなく、人からもらったものばかりなんです。
藤原
たしかに拳磨くんは、いろんな人から物をもらったり、支えてもらったりして前に進んでいきますよね。
上野
そうなんです。自分で格好をつけていくのではないところが、このキャラクターのミソですね。職場の先輩が「これで東北に行け」とオートバイをくれ、福島で出会った
樽夫社長が「古いものだけど物は悪くないから持ってけ」と拳磨に皮ジャンをプレゼントする。そうやって、人からもらったもので拳磨のスタイルができあがっていくんです。ちなみに樽夫社長のモデルは樽川さんですよ。
樽川
福島の製造業だし、震災のエピソードも実体験に近いですね。
上野
「削り屋」には樽川さんの人生が詰め込まれています。第6章「軌跡」(WEB版は「ある削り屋の軌跡」)では、樽川さんご本人の軌跡がかなり語られていますよ。樽川さんが経営者になっていく人生を描きました。そこに、樽夫社長のライバルであり、拳磨の師匠ともいえるキャラクター、旋盤の鬼・オニセンが絡んでくる。
藤原
オニセンは天才的なセンスを持っている旋盤職人ですよね。
上野
そう。樽夫は昔、手で削る技術ではオニセンには敵わないと思い、NC旋盤を扱う道を選ぶ……という、二人の人生が枝分かれになっていく。これは、光と影でもあります。どちらが光かというと、樽夫社長のほうが、光なんですけど。
後藤
NC5軸加工機を操るほうが、メインストリートだね。
上野
オニセンがダークサイドというわけではないですけれどね。オニセンというキャラクターは、非常に厚みがあると思いますよ。
茂原
拳磨は、オニセンと樽夫社長両方の両極の人生を学ぶことができて、貴重な体験をしていますよね。
上野
先輩の「削り屋」たちから、拳磨がなにを学んでいくのか……それは小説を書き始めた時は、僕にもわからなかったんです。取材を進めていくうちに、ものづくりの仕事は技術を磨く事ではなく、最終的に人が使うものを作ることこそが仕事なのだと感じましたよ。

(聞き手:河野桃子)
※「KATAYA~金型物語~」……NCネットワークホームページ/エミダスマガジンにて連載。現在もWEBで読むことができます。

次回 〜下〜 「ものづくりの現場を変える人とは」

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